不正解、食べられます!
アケボノアワタケ 食
写真と文章/新井文彦

春は、あけぼの。
やうやう白くなりゆく、山ぎは少し明かりて、
紫だちたる雲の細くたなびきたる。

と、清少納言は「枕草子」に記しておりますが、
曙は、夏も、秋も、冬も、要するに、
四季それぞれに「いとをかし」と思うわけで(笑)。

ぼくは、基本的に、超朝型なので、
夏なら午前3時半、冬でも午前5時くらいに起きて、
撮影に出かけたり、パソコンを睨んだり。
ほぼ毎日のように曙を過ごしております。

紺から青に変化した空が淡いピンク色に染まっていく曙。
白みはじめると同時にどんどんオレンジ色が濃くなる曙。
もう、本当に様々な色の曙があります。
夏から秋にかけての森の曙は、晴れの日であれば、
うっすらと白い霧が立ち込め、いきなり、劇的に、
金色の太陽光が射し込んでくる、という感じ。
百日森に入れば、百日違う森が見られるんですよね……。

そんな、ちょっと劇的な夜明けとは対照的に、
小雨が降りしきるしっとりと落ち着いた夏の朝、
森をうろうろしていたら、かわいいきのこを発見。
その名も、アケボノアワタケです。

ややピンクがかった感じの傘や柄の色は、
薄い紅色というか、淡いワイン色というか、
まさに、夏の曙色、黎明色、夜明け色。
実に、美しい色合いです。

アケボノアワタケは、主に夏の盛り、
針葉樹林、広葉樹林を問わずに見られる、
傘の直径が5〜10cmくらいの中型のきのこです。
アワタケの名があるように、傘の裏側は、
ヒダではなくスポンジのような形状の管孔。
もうおわかりですね、そう、イグチの仲間です。

実は、柄をよ〜く見てみると、曙色ではなく、
白地に曙色の鱗片が付着しているのだとわかります。
そして、基部は、なんと、鮮やかな黄色。
似たような種類がたくさんあるイグチの仲間にあって、
けっこう同定しやすいきのこのひとつかと。
ちなみに、傷つけても変色しません。

そして、このきのこ、食べられます。
どの図鑑も「可食」とだけ記載されていて、
具体的な料理方法などには触れてないので、
お味は、まあ、その程度なのでしょうが(笑)。

ところで、写真をよくご覧いただくと、
大きなきのこの隣に小さなきのこも写っています。
果たして、この先、
小さなきのこがぐんぐん力を発揮して、
大きなきのこをえいや〜っと打ち負かすのか、
はたまた、
大きなきのこの傘の力に遮られ、
小さなきのこは頭を垂れたまま人(菌)生を終えるのか。

あれこれとそんな想像にふけるのも、
森歩き、きのこ観察の醍醐味なんですよねえ……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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