おしい!食べられるんです!
カバイロツルタケ 食
写真と文章/新井文彦

日本人が「和服」を着るようになったのは、
平安時代のだいたい中頃からみたいですね。
それから、生活に即した衣服の文化を形成しつつ、
単(ひとえ)や袿(うちき)などを何枚も重ね着する、
十二単(じゅうにひとえ)に見られるような、
四季の自然を範とした様々な配色を楽しむ様式が、
徐々に育まれていき、現在に至るわけです。

衣の表裏の地色を重ねて生まれる色の組み合わせを、
「襲(かさね)の色目」と言います。
その昔、衣服に使われていた絹は非常に薄かったので、
裏地の色が表に透けて見えるのを生かして、
独特な美しい色合いを表現することができたそうです。
男女ともに年齢や季節などで着用する色が決まっていて、
いかにその季節に相応しい装束を着こなすかが、
平安以降の貴族にとっては重要な教養の一つだったとか。

襲の表地には名前相応の植物の文様を加えたそうで、
樺桜(かばざくら)という名の春に用いる色目もあります。
ここで、ようやく話が見えてきました(笑)。
そう、樺色(かばいろ)です、樺色。

以前ご紹介した、カバイロテングノメシガイ、そして、
今回登場の、カバイロツルタケの名にも使われている、
「樺色」とは、一体どんな色やねん?

要は、赤味の強い茶黄色、もしくは、
橙色をちょっと暗くした感じの色ですな。
水の中から伸びているガマという植物の、
穂の色をしているということで、
「蒲色」という表記をされる場合もあります。

さて、カバイロツルタケは、
これまた以前ご紹介したツルタケの仲間。
夏から秋にかけて、針葉樹、広葉樹を問わず、
さらには、平地から山岳地帯まで、
実に広い範囲で見ることができます。

ツルタケとの大きな違いは、その色彩。
傘も、柄も、ツボも、名前の通りに樺色〜褐色です。
傘は真ん中が色濃く(暗く)なっていて、
周縁部にははっきりした条線が見られます。

全体的にもろいので歯ごたえはありませんが、
風味に癖がなく、煮込むといい出汁が出るとか。
ただし、ツルタケ同様、生食すると中毒するので要注意。
そして、毒きのこが多いテングタケの仲間なので、
同定に自信がない場合は決して食べるべからず。

それにしても、日本って、四季があるどころか、
秋分とか、寒露とか、霜降とか、立冬とか、
24もの季節を意識して生活しているわけですよね。
ぼくも、日々の生活全般において、
自然を範として生きていきたいと思います。
よくぞ日本に生まれけり。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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