ツリガネタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

1991年のこと。
イタリアとオーストリアの国境にある氷河で、
登山者が男性の遺体を見つけました。

ミイラ化していたその遺体は、調査の結果、
なんと約5000年前の新石器時代のものと判明!
氷河で氷漬けにされて見つかったことから、
「アイスマン」という愛称がつけられました。

アイスマンは、
火おこしの道具や、先端が火打ち石でできた短刀、
さらには、2種類のきのこを携えていたそうな。

勘のいい人は、もうお分かりですね(笑)。
そう、アイスマンが所持していたきのここそ、
今回ご紹介する、サルノコシカケ科の、
我らがツリガネタケなのですよ。
火をつけるときに使う火口(ほくち)として、
使われたのではないか、という説が有力です。

ツリガネタケは、
主に広葉樹の枯れ木や倒木から発生。
サルノコシカケの仲間に多く見られるよう、
年々大きく育っていく多年生のきのこです。

拳くらいの大きさの小型系統と、
直径が30cmにもなる大型系統がある、
とされていますが、もしかしたら、
これらは別種である可能性も否定できないとのこと。
今後、いずれ、解明されることでしょう。

表面は固く、裏側は管孔状になっています。
パカっと割るとフェルト状になっている部分があり、
それをもっと叩くなりして火口にするようです。
(脱脂綿的な使用用途もあったとか)
人類は、5000年も前から、きのこを食用以外に、
道具として使っていたなんて感動モノですよね!

ま、そういう感じなので、
食べるには、まったく適しません。

そう、
アイスマンが所持していた、
もうひとつのきのこというのは、
同じくサルノコシカケ科のカンバタケ。
こちらは、宗教的上の道具、
あるいは、薬として用いられたいう説が有力です。

ええと、あの、蛇足ながら、ツリガネタケは、
写真右側に写っている釣鐘形のきのこですから(笑)。
真ん中に、で〜ん、と写っているピンクの物体は、
泣く子も黙る、粘菌の、オオクダホコリです。
すごい存在感!

粘菌って何?と疑問の人は、
ネットや図書館でお調べいただくか、
あるいは、宣伝をして申し訳ありませんが、
拙著『きのこの話』でも取り上げております、はい。

ちなみに、研究の結果判明した、
アイスマンの死因は、
なんと、なんと、殺人!なんだそうです。
う〜む。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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