これは、食毒不明なんです。
ヒトヨタケ 毒
写真と文章/新井文彦

植物は、光合成によって、
生きていくためのエネルギーを、
自分自身でつくりだすことができますが、
菌類や、人間をはじめとする動物などは、
栄養源となる有機物を体外から得る必要があります。

摂取した物質は、栄養素として利用されるべく、
物理的、化学的に、分解処理されます。
そう、それが、消化ですな。

ところが、動物(主に人間)は、
身体によいものばかり食べているわけではありません。
美食も度を越すと、悪食になったり……。
フグの肝を4人前平らげたあげく死亡してしまった、
という、いわゆる「食通」の方もいるくらいですし。

フグ同様、きのこの毒にも、
十分に気をつけなければなりませんが、
食べ方によって、毒にも可食にもなる、
そんなきのこも存在するわけです。

今回ご紹介するきのこは、ヒトヨタケ。
夏から晩秋にかけて、森の脇や、草地などで発生します。
食べられるか、食べられないかの、クイズの正解は、
「食べられない=毒」としたのですが、
幼菌のうちなら可食で、そこそこ美味です。
汁物や、さっと湯がいて三杯酢で召し上がれ。

じゃあ、はじめから、
「食べられる」を正解にすればいいのに!
とお思いの方もいらっしゃるかと。
これには、不快、もとい、深い事情が……。

傘の直径は5cm前後。
たまご形から鐘形へと形を変え、
やがて反り返りはじめると、周縁部から液状化します!
色は、やや光沢のある白〜紫灰〜黒へと変化。
黒い水滴をぽたぽた落とす様子から、
英語では、inky cap などと呼ばれています。
そう、つまり、幼菌でなければ、
きのこの形を留めてないわけです(笑)。

ところで、ヒトヨタケには、
コプリンという物質が含まれているのですが、
こいつが、もう、酒飲みの敵なんです。
なんせ、お酒と同時に摂取しようものなら、
アルコール分解に関与する物質の作用を阻害!
つまり、酒飲みが恐れる「悪酔い」を引き起こすんです。
それも、激しい二日酔い状態!ってんですから、
か、考えるだけで、お、恐ろしい……。

顔面紅潮くらいの症状ならまだしも、
頭痛、嘔吐、さらに、血圧低下に、昏睡、ときたら、
もう、二日酔いどころではなく、重症ですよね。

アルコール摂取状態でヒトヨタケを食べると、
通常、20分〜2時間くらいで、上記症状が発症します。
でも、効果は長続きせず、4時間程度で回復傾向に。
気をつけなければならないのは、
ヒトヨタケを食べてから、何と、5日の間は、
症状が発現する可能性があること!
お酒を飲む方は、どうぞご注意くださいませ。

とはいえ、お酒を飲まない人にとっては、
毒でもない普通の食用きのこなんですけどね……。

ちなみに、本欄で以前ご紹介した、
ホテイシメジも、コプリン仲間。
アルコールと一緒に食べると危険です。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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