シラウオタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

ずっとずっと昔、生物の分類が、
動物と植物、たった二つに分けられていた時代、
花が咲く「高等」な顕花植物に対して、
シダや、コケや、きのこや、粘菌などなど、
花が咲かない「下等な植物」を隠花植物と言いました。

現在では死語に等しい「隠花植物」という言葉、
そして、そこに分類されているものにも、
ぼくはすごく魅力を感じているんです。
だって、ぼくが好んで撮影する被写体の多くが、
いわゆる隠花植物なんですからねえ……。
我が敬愛する知の巨人・南方熊楠も、
きのこや粘菌など、隠花植物が得意分野でした。

きのこを探して森を歩いていると、
小さな小さなコケや粘菌もよく目につきます。
そして、もうひとつ忘れちゃいけないのが、
今回の主役でもある、地衣類(ちいるい)です。
え?え?主役はきのこでしょ!
シラウオタケでしょ!
と、思った人も少なからずいますよね。
では、ぼちぼち本題に入るとしますか。

実は、このシラウオタケ、
きのこはきのこなんですけど、
地衣類とみなされる場合もあるんです。

じゃあ、その、地衣類とは何ぞや?
簡単に言えば、菌類と藻類の共生体です。

菌類は安定した生育場所と水を藻類に提供し、
藻類は光合成でつくった栄養を菌類に提供。
一心同体でお互いに助け合って生きているわけですな。
どの地衣類も、一種類の菌類と一種類の藻類からなり、
遺伝情報は、まるでひとつの生物であるかのように、
次の世代へと伝えられていくのだとか。
分類的には菌類なので、当然、隠花植物です。

地衣類の名前には、
ヤグラゴケや、コアカミゴケのように、
最後に「コケ」が付いているものが多いのですが、
当のコケとはまったく別モノなのでご注意を。
阿寒の森ではたくさんの地衣類が見られるので、
気になる方はぜひ探してみてください。

で、シラウオタケです。
発生場所には必ず緑藻が生じているんです、これが。
どうも自分で栄養を確保しようとせずに、
緑藻から栄養をもらってるっぽい……。
きのこの風上にも置けないやつだ!
とまでは言われておりません(笑)。

それにしても、どうです、
上の写真のシラウオタケの生えっぷり。
校長先生の話を聞く中校生のように整列してますねえ。
まあ、仮に、緑藻がソーラーパネルだとしたら、
面積当たりの発電量は決まっているわけで、
分配効率を考えた上の配置なんでしょう、きっと。

子実体の長さは最大でも2cm弱くらい。
姿形は、その名の通り、白魚のようです。
とても小さいし、一説には口にすると苦いらしく、
毒はないとしても、食べるには不向きです。

ちなみに、
シラウオとシロウオは、似ているけど違います。
漢字で書くと、シラウオは白魚、シロウオは素魚。
シラウオはアユやシシャモの仲間、
シロウオはハゼの仲間です。
シラウオタケとは違って、
いずれもおいしいですよねえ……(笑)。

何はともあれ、隠花帝国に繁栄あれ!

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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