これは、食毒不明なんです。
クチキトサカタケ 食毒不明
写真と文章/新井文彦

さて、今回は、ちょっと阿寒湖を離れて、
東北地方で撮影したきのこをお届けします。

青森県の八甲田山の周りには、
気持ちのいいブナの森が広がっていて、
ぼくは、毎年、春と秋に訪れています。

いつもご機嫌を伺いに行く、ブナの巨木は、
大きな沼のほとりの遊歩道から少し外れた山中にあり、
季節ごとにいろいろな顔を見せてくれます。
新緑よし、紅葉よし。

ブナの森と言えば、きのこ。
きのこと言えば、ブナの森。
そう言いたくなるほど、ブナの森では、
多種多様のきのこを見ることができますし、
おいしいきのこの宝庫です。

と、前フリをしておきながら、
今回のきのこは、ブナに生えるのですが、
食毒不明なので、食べることができません(笑)。
その名も、クチキトサカタケ、です。

じっくりと写真を眺めてみてください。
この個体の大きさは直径20cmほど。
暗い萌黄色とも、茶色とも、暗ワイン色とも、
チョコレート色とも、つかない地味な色合い。
トナカイのツノ、もしくは、脳ミソのような、
名前のごとく、鶏のトサカのような、
わけのわからない複雑な形……。

これでも、食べたいと思います……(笑)?
食べたい!とお答えの方もいらっしゃるでしょう。
蓼食う虫も好き好き、菌食う人も好き好き、ですから。
今後、調査研究が進んで、確実なことがわかるまで、
ま、食べない方が、無難、無難。

ぱっと見た感じでは、硬そうですが、
弾力があって、しなやかな触り心地。
多年生のサルノコシカケの仲間とは異なり、
晩秋になると、だんだん朽ちてきます。
そして、なんとなく、ナッツ系の香りが……。

この、クチキトサカタケは、
主にブナの枯木(朽木)で、夏から秋に発生しますが、
なんと、なんと、一属一種の、日本特産!
まだ世界で他に発生報告がないのです、これが。

環境省のレッドデータブックによれば、
「絶滅危惧1類 CR+EN」
絶滅の危機に瀕している種、とされてますが、
発生時期に東北地方のブナの森へ行けば、
比較的簡単に見つけることができます。

温暖化や開発で、ブナが減少しているのに伴い、
クチキトサカタケも運命を共にしている、
ということでしょうか?

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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