ドクベニタケ 毒
写真と文章/新井文彦

森でよく見かけるきのこベスト10、
なるものが、もしもあるとするなら、
間違いなく上位に入るであろう、ドクベニタケ。
夏から秋にかけての、けっこう長い期間、
広葉樹の森であろうが、針葉樹の森であろうが、
とにかく、いたる場所でお目にかかれるきのこです。

緑の森に、赤い笠、白い柄、ときたら、
これはまさに、クリスマスカラー(笑)。
そのうえ、いかにも、きのこきのこしたシェイプ。
視覚的、被写体的に、文句のつけようがありません!
世の中には、食べられるきのこ、
しかも、おいしいきのこにしか、
価値を見出さない方もいらっしゃると思いますが、
いざ、森へ出かければ、こんなにきれいなきのこを、
けっこう頻繁に見ることができるんです。
わくわくしませんか?

もちろん、きのこ狩りも楽しいっすけど、
きのこ観察もなかなかですぜ、旦那、そして、姐さん。

その名も、ドクベニタケ、と、
名前に「毒」がついているくらいですから、
毒を持っていない方が不自然(笑)。
名実ともに、立派な、毒きのこです。

ただし、ドクツルタケのように、
1本食べたらほぼ確実に死んでしまう、
というような猛毒を持っているわけではありません。
誤食したら、一般的には、腹痛や下痢で苦しむことに。
それと、生食は、非常に危険です。
生で食べると毒素がより有効に働くらしく、
欧米では死者も出ているのだとか。

どうも、ドクベニタケの「毒」という名前は、
思いっきり味が悪いことに由来するみたいです。
と、言われると、どんな味か気になりますよね?
良い子、紳士淑女の皆さまにおかれましては、
決して真似をしないでいただきたいのですが、
実は、ぼく、好奇心に負けて、ドクベニタケを、
かじってみたことがあるんです。

ひと口かじって、その味を認識した瞬間、
遠く、小学生の頃のことを思い出しました。
級友がふざけて、カプセル薬の中身を取り出し、
それをなめさせられた時のことを……。

味、というより、刺激、ですね。
辛味や、苦味や、雑味が、渾然一体となって、
舌の味蕾という味蕾に一斉攻撃を仕掛けてくる、と。
いやあ、味うんぬん、というより、痛かったです。
しばらく、味覚が麻痺しちゃうくらいに。

最初に、森でよく見かける、と書きましたが、
実は、この、ドクベニタケ、
似ているきのこがたくさんあるんです。
傘が赤くて、柄が白いきのこ、というと、
チシオハツ、シュイロハツ、ニシキタケ、
ヒナベニタケ、コベニタケ、などなど、
枚挙にいとまがありません。
挙句の果てには、ドクベニダマシなんぞという、
ドクベニタケそっくりだけど、苦辛くない、
なんて訳のわからないきのこまであるくらい。
きのこ初心者には、到底分類なんぞできません。

あえて挙げるなら、ドクベニタケの特徴は、
傘の赤い表皮が、はがれやすいんです。
つるつるっとむけます。
白状するなら、ぼくが、
他のきのことドクベニタケを区別できるのは、
何を隠そう、その1点のみです。

では、他の紛らわしいきのこは、いかに判断してるか?
しません!と、いうか、できません(笑)!

ま、とにかく、森で、
赤い傘に白い柄のきれいなきのこを見つけたら、
食べられるか否かなどはあまり考えずに、
じっくり、観察しようではありませんか。
心が満腹になるくらいに。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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