おしい!食べられるんです!
ツバナラタケ 食
写真と文章/新井文彦

写真は、オニナラタケです。
(ツバナラタケ、とも言います)
もし、特にきのこファンでもない人が、
この名前を聞いて、ぴぴぴ、と来たなら、
「雑学」と呼ばれている分野に相当通じている、
と言っても過言ではありません。

我々、きのこファンが、世間の関心をひくために、
「きのこトリヴィア」を披露しようと画策する場合、
まず、真っ先に思い浮かべる設問があります。

この地球上でいちばん大きな生物は何でしょう?

ここまで引っ張れば、
ホッキョクグマとか、シロナガスクジラとか
アメリカはセコイア国立公園に生えている、
ジャイアントセコイアの巨木、
などと答える人は、いらっしゃいませんよね。

そう、答えは、もちろん、きのこ。
きのこもきのこ、この、オニナラタケなんです。

今を遡ること約9年前、アメリカのオレゴン州で、
地中に伸びるオニナラタケの菌糸が調査されました。
そうしたら、おどろ木ももの木さんしょの木、
なんと、約2200エーカー、ええと、
換算すると、約8.9平方キロメートル!
え?実感ない?ありませんよねえ……、
じゃあ、東京ドーム684個分ってことでどうだ!
(飯沢耕太郎著「きのこのチカラ」より)
と、言うわけで、とにかく、そのくらい広い範囲で、
同じオニナラタケの遺伝子が確認されました。

つまり、これをひとつの生物であるとするなら、
推定重量600トン以上、推定年齢は2400歳。
クマもクジラもまったく論外の、超巨大生物です。
(調査は重ねられ、その度にエリアは広がっています)
きのこって、すごいでしょ?

同じクローンが集まったコロニーである、
という説も、実は、捨て切れないのですが……。

その、世界最大の生物・オニナラタケは、
北海道や、東北地方では、
ナラタケ、ホテイナラタケ、ヤワナラタケなど、
他にいくつかあるナラタケの種類と、
すべて一緒くたにされて「ボリボリ」と呼ばれ、
味も、歯ごたえもよく、いい出汁も出る、
優秀な食菌として、広く愛されています。
ぼくも、大好きなきのこです。

ところが、ナラタケの仲間は、
木の根っこから感染して木を枯らしてしまう、
樹木病原菌、と言われており、
林業関係の人などから、蛇蝎の如く嫌われています。

あの有名な吉野の桜も、枯れる原因の多くが、
ナラタケによって引き起こされた、
その名も「ナラタケ病」であると言われています。

きのこは、悪くないのよ……。
ただ、一所懸命生きているだけなのよ……。

ナラタケを見つけて、根こそぎ採取し、
おいしくいただいたとしても、
樹木にとっては、万事休す。
ナラタケが根本に群生していたら、
回復する見込みはほとんどないそうです。

これも、まあ、自然の摂理、弱肉強食、ですよね。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする