欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

番組を復活させるには?


糸井 土屋さんが、
日テレの若いディレクターたちを
萩本さんに会わせて、番組を作る、
『笑いの巨人』
という深夜番組、ぼくも見ていたんです。
「なんか惜しい」と思いながら、
毎回見ていたんですけど、萩本さんは、
どういうことを、考えていましたか──?
萩本 ぼくは、若い人たちが、
なんかすごい企画を持ってくる、
と思っていました。

それに、ぼくにとっては、
日本テレビの若いディレクターたちが、
何を考えているんだろうということのほうが、
興味があるし、勉強になりますから。

だから、
「好きなことやればいいんじゃないの?」
「こういうのやりたいんです」
「はい」
ということになりまして。

お利口な子たちだから、
あたりさわりなく、気をつけてやってくれる。

心の中では、
「もっと大胆にしたほうが
 いいんじゃないの?」
と思いながら、やっていました。
糸井 萩本さんを、
先輩側に立てちゃうと
むずかしいかもしれませんね。
後輩側に立つことを求めているんですから。
萩本 うまいですねぇ。
先輩側になると、ウソつくんですよ。
ポーズしちゃうの。
糸井 きっと、若い子は、
「それ、大発見じゃない? 教えて!」
と言いながら、一緒に組めるなら、
いちばん、たのしいんでしょうね。
萩本 そうそう。

テレビっていうのは、
経験がいきない世界ですから。
野球選手とおんなじです。

落合さんが、40歳になったら、
バントを頼みにくいじゃない?
だから、引退して監督になる。
そういうようなことです。
糸井 萩本さんを
粗末に扱うということが、
とてもやりづらくなったら、
萩本さんにも、ソンですよね。
「欽ちゃーん! もっとこっち寄って!」
という人が、
ひとりでもいてくれたら、ラクですよね。
萩本 ええ、だから、
数字取る方法はと聞かれても、
「30代までの欽ちゃんが
 いればいいんじゃない?」
としか、こたえられないんです。
「40代以降の欽ちゃんには、
 数字はないんじゃないの?」

だって、テレビは、
「何がしたいか」では、ハズすから。

「あいつに何をさせたいか」
で、決まるんだから。

土屋くんの
『電波少年』も、そうだったでしょう?
松本明子ちゃんも、松村も、
行きたくない場所に行かせてるんだから。
それが、
テレビというものなんじゃないのかなぁ。
糸井 萩本さんには、
「番組が当たらなかったところから
 すべって転んで、復活して」
というドラマって、あるんですか?
萩本 テレビの半分は、
「あいたたた」ですよ。
コケてるのが、表に出ないだけで。
コケてんだけど、目立たないという。
糸井 そういうときはどうするんですか?
ひとりで、落ちこんでるんですか?
萩本 そのときは、まわりに神経使っときます。

……あの、
ほんとに番組が当たったときには、
神経を使えないんですね。
真っ白になって、進んでいくもんですから。

だから、すべったときは、番組以外の、
ふだん神経を使えないようなところで、
「お酒を、飲みますか?」
「ゴルフ、行きますか?」と……(笑)。

スタッフのかたには、いい機会だから、
夜はなるべくおいしいもんを食べてもらって。
お休みの日にも、たのしんでもらって。
糸井 (笑)
萩本 ふつうは、逆なんです。
テレビが当たらないと、
弁当も悪くなるし、泊まるホテルも悪くなる。
どんどん、そういうところが悪くなるから、
タレントさんも、スタッフも、
「当たっていない」という意識になるわけで。

だから、当たっていない番組ほど、
弁当をデカくすればいいや、と思うんです。
「他に気分がないもんで、弁当だけデカイです」
とか言って、ね。

番組が当たっていないから、余分な金も出ない。
「それなら、俺のポケットマネーだ!」
と言って出す度胸があれば、いいわけでしょう?

そういうところから、
「あいつのために、
 なんか、がんばってあげよう」
という1本の線が2本になり、
3本の線ぐらいあれば、復活はできますね。


ダメなときに、
みんなダメだと思っちゃう、
っていうのが、いちばんの悪いところだから。

それでも、ほんとにダメなときは、
お客さんや、目の前にいる人だけには
たのしい思いをさせようと、必死になりますね。
「ダメな番組を撮っていた」
ということを、すべて忘れて帰ってもらう……。
「いやあ、おかしかった!」
と思って帰ってもらわないと。
糸井 そのためには、
なんでもします、みたいな感じですか?
萩本 ええ。
もう、そのときだけは、
ひっちゃきになって考えますね。

番組はすっかりダメでもいいから、
あのしゃべりは、おかしかったね、と。
そう思ってもらえるように工夫をします。

こないだも、
あるタレントさんが来ないから、
ずっとその間、
40分間、おしゃべりをしていたの。

そしたら、
プロデューサーが来て、
「あれは、ほんとに、おかしかった
 テレビに流したかったよ」
と言ってくれるんです。

こっちは、真剣なわけですよ。
タレントさんが、
いつ来るかもわかんないし、
まさに、アドリブなわけですね。
番組では、流れないわけですけど……。

ただ、すごいディレクターは、
そっちのアドリブを
流しちゃったりするんですよね。
どれがおかしかったかっていうところで
判断ができるから。


「タレントさんが来ないところで
 一本ぶんだ」っという考えかたをする。

そうしたら、来たところの収録も含めて、
番組は、2本ぶんができるわけですよね?
そうすると、制作費は、1本ぶん助かる。
そのぶんを、他に使うだとかするわけで。

「いまは、
 他のタレントさんが入っていないから」
というので、
放送しないんだと思いこんでいると、
その40分間が、仕事にならないんです。

だけど、すごいディレクターなら、
「これも、流すかもしれない」
と、待っている間も、仕事をするんですね。

テレビは、作るものというよりは、
作られちゃうものなんですから。
ディレクターが、
こうなるといいなと思うより、
「あれ、どうなっちゃったの?
 これ、ずいぶん遠くまでいってら」
ということが、おもしろかったりするんです。


そのときに、
「ダメだよ! どこでなにやってんだよ!」
と言っているディレクターと、
「待てよ……カメラさん、
 これ、ちょっと押さえといてくれ!」
と言っているディレクターとでは、
もう大きく、
できあがるテレビが、違いますからね。
  (明日に、つづきます)

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2004-09-28-TUE

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