欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/26
17 ダメなヤツが当たるから

萩本 野球の才能なんて
ないやつが大半なんだから、
そういう人たちが
「ユニフォームをつくることで
 たずさわりたい」とか、
はいってきてくれないと、ね。

いま、真剣に
野球をやっていると
「たいへんそうですね」と言われる。
「たいへん」じゃなくしてあげれば、
気軽に、はいってきやすくなるんだもんね。

還暦もとうにすぎて、
お金がありあまっている人のなかに、
「あのさぁ……
 貯金、10億円ありますけど、
 チビチビ、使いてぇんだよねぇ」
と言っている人がいたら、
その人は、チビチビ使うことで
野球に参加すればいいんだ、といいますか。

「貯金がありすぎるんでね、
 選手に食わせるだけはしてあげたい」
そういう関わりかたも、いいじゃない。
糸井 もしかしたら、
プロ野球選手でさえも
そのなかにはいりたくなる
アマチュアのチームが
あってもいいですよね?
萩本 そう。
清原選手がもしきてくれたら、
もう、78歳ぐらいまでは
現役でやってもらいたいですからね。

「ぼくの野球は、勝ち負けではない。
 あなたのことが、見たくてたまらなくて、
 何万人もが球場に集まる野球をやりたい」

そういうことを伝えたくなる選手ですよね。
お客さんが、総立ちになって拍手する選手は、
いま、まずは、清原さんですもん。
あんなスーパースターは大事にしなきゃ……
ほんとの意味で、お客さんを呼べる選手だから。

清原選手とファンの関係を見ていると、
野球は、打率やホームランの数で決まるとは、
まるで思えないもの。

今だと、
野球関係者のあいだに
危機感がありますし、
みなさん、不安とか心配をしているから、
ちょっと、改革に動きだしてるんじゃないか、
という気はします。

テレビのプロ野球中継の視聴率が悪いと、
みんな、こまりますからね。
テレビもこまるし、球団もこまる……。

ぼくが番組をつくっていたころは、
「あぁ、野球か……
 自動的に、25%、とられちゃうなぁ」だった。
でも、今は、
野球だと裏番組のディレクターたちは、
むしろ安心できるっていうんだからね。

そんなところまで
来ているっていうのは、深刻ですよ。
糸井 テレビがそうだということは、
おそらく、
スポーツ新聞も、そうなのでしょうね。
萩本 絵でこちらにとどかないものを、
活字がつなぐわけだから、
もしも、ほんとに野球がすごいなら、
新聞が売れて、野球の雑誌が売れて、
というふうにならないと、
ほんとにいい産業とは言えないもんね。

野球監督をやると言ったときに、
野球の雑誌の人、飛んできましたよ。
そのとき、ぼく、きいてみたの。

「売れていますか?」

「ぜんぜん、売れていない。
 すこしずつ、売れなくなってきている」

「野球の雑誌の人たちが
 ウハハ、と笑うようじゃないと、
 野球自体が、
 世間とズレてきている、
 ってことなんじゃないですか?
 ……だから、こっちも、
 雑誌も売れるように考えるよ」

「つづきは、雑誌で」とか、
「くわしくは新聞で」とか、
そういうのも、あっていいんじゃないかなぁ。

野球監督になったとたん、
番記者が、いつもいるようになった。
一生懸命、
「欽ちゃん、
 野球をほんとうに変えてくれますか?
 私たちがお仕事できるようなことは
 ありますか?」
みんな、変えるための
手伝いをしようとしている。

それなら、変えればいいんだもんね。
選手の言葉を変えるのも、
やればできるはずなんだ。

ふだん、
「がんばります。一生懸命やります」
と言って、済ませるのがほとんどですよね。

だから、
ぼくは、野球選手に
言葉のことでは、頼んだことがあったんです。

「奥さんに、まず、言葉で伝えてみてください。
 ちがうセリフで、3回、伝えてみてから、
 その言葉を、球場に、持ってきてほしいんだ。
 言葉のひとつひとつが、
 あなたのしている野球の魅力なんだし、
 奥さんの見ているあなた、なんだから、ね?」

よーし、投げるぞ、とか、
タマが遅くなった、とか、ありきたりのセリフは、
お客さんを、よろこばせないんですから。

スポーツ選手の言葉に、
テレビの前の人や、子どもは、酔うんだもんね。
「もっと、こういうことを言ってほしいんだ!」
見ている人たちからも、提案したらいいんです。

まぁ、そうなっていくのが
ぼくのやりたい野球なんですね。
糸井 野球の話を中心にしてきたけど、
萩本さんのしゃべることって、いろいろな
「たとえ」になりそうな話が、多いですね。

いつも、
野球だけの話には、ならないですから。

萩本さんが、
ものすごい数のお客さんを相手にして
身につけてきた、
生きる方法みたいなものが
にじみでているんでしょうね。
だから、まず、
「生きる方法」の話に、きこえましたから。
萩本 そうだね。

いちばん痛快なのは、
「ダメなヤツが、がんばること」だもん。
野球も、芸能も、それは変わらないから。

有名人に、おそるおそる企画をおねがいして、
それで高視聴率をとるなんて、つまらないの。

「おまえ、ダメじゃねーか!」
しょっちゅう、怒りたくなるダメなヤツが、
30%、とったんだよね。
それが、ぼくと番組のスタッフたちだもん。

ダメなヤツらが
とてつもない力を発揮したから、驚いたの。
ただ、その番組をつくったヤツらが
また集まって、30%をとれるかというと、
とれないんですよ。

もともと、すごくないんですから。
それなのに、成功すれば成功するほど、
ダメのレッテルがなくなって、いつのまにか、
「すごいヤツ」になっちゃう……
そうすると、だんだん、つまんなくなるのよ。

すごいヤツが、
「当たるテレビ」をつくったとしても、
なにもすごくない。おもしろくもない。

だからこそ、
今、ダメと思われかけている野球の世界で、
監督がダメで、集まるヤツがダメで、
しかし人気だけはある、というところから
はじめるのは、いいんじゃないかと思ったの。



(次回に、つづきます)
 
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