欽ちゃん!2006 

萩本欽一さんの、おもしろ魂。
最新の記事 2006/05/10
05 主役を作る方法

糸井 守備のつまらない野球のなかで
イチローさんが、
「守備の時間に
 お客さんの目をクギづけにしたい」
と言うのは、やっぱり、
とんでもないことですよね。
萩本 うん。
つまらないところを
おもしろくするから、すぐれてるんじゃない?

ベンチのなかでも、ちがうこと言わなきゃね。
ダブルプレーで、お客さんもベンチのなかも、
「うわぁ……!」と言っているとき、
「ナイス! 最高だぞ!」
と、ぼくは、言うの。

「次がヒット打ちそうなんだから、
 いいところで
 きれいにダブルプレーで切れたよなぁ。
 次、点、取れるからな!」

暗示をかけておくんです。

「いよいよ点をとるぞー。
 どうだ、おまえ、次、打てそうだからな!
 もう次に、打つんだから……いってこい!」

そう言うと、1点とってくる。
こないだも、4点、それで逆転したの。

プロ野球に逆転がないというのは、
選手を、流しすぎなんじゃないか、
と思っていたから。

つまらないところを
おもしろくするという意味では、
選手の姿勢にも、いえることだよね。
ストライクをとられたときに、
さみしそうな顔をした選手がいたわけ。

「あぁ……
 単なる5番バッターだと考えないで
 オレは日本のスターだ、
 と思って立ってくれないか?

 ストライクとられたら
 鼻歌うたうぐらい、
 あそこで、うんと芝居をしてくれ。
 そしたら、いいバッターになるから!」

実際に、それ言ったら、
ボールの見送りかたが、美しくなった。
見送りかたが、美しくなったら、とうとう、
ホームランを打つようになっちゃってねぇ。

半年のあいだに、
風格で打てるようになったんですね。
糸井 すごいなぁ。
萩本 説明は、わけがわからないほうが
いいのかもしれませんね。

「説明してくんない」
ってのも、大事なのかもしれなくて。

「コメディアンの基本は踊りだ。
 踊ったやつが、いちばんだね」

昔から、そう言われてる。
だけど、誰も、
なんで踊るんだか、説明してくれないのね。

昔のコメディアンというのは、
ほとんど、小学校しか、行ってなかった。

「どうやったら、
 笑い、うまくなるんですか?」

その質問にこたえられる先輩がいないの。

「んー……やってれば、うまくなる」

これ、なんの答えにもなってないでしょう?

ほかの先輩にきいてみる。

「どうやったら、うまくなるんですか?」

「んー……9年たてば」

答えられない。
それが、いいんじゃないかなぁ。
だから、自分で、探すようになるのね。

今は、すぐれものたちが
コメディアンになっているから
答えが、教えられちゃうんです。
野球も、そうなんじゃないかなぁ……
すぐれものがいて、答えを教えてしまう。
だから、みんな、おんなじ選手ができちゃう。
糸井 答えに、飢えていないわけですね。
いつも、答えが供給されちゃうから。
萩本 うん。
「コーチの言葉が100%ただしい」
これが、前提になっちゃっている。

ただしい言葉が出てくるから、
ただしいことをやればいいと思いこんで、
すぐれた特別のものが、生まれなくなる。

だからやっぱり、ここは、
言葉にできないコーチが欲しいところだね。

「コーチ、どうやったらうまくなるんですか?」

「んー……やってれば」

「バッティング、うまくなりたいんですけども」

「やってれば?」

そうすると、答えがないんですよ。
だから、自分で探すんですよねぇ。

自分で答えを探すと、
個性のあるバッティングが生まれるわけで。

すぐれた、変わった打者が
出てくるときというのは、
おそらく、すぐれたコーチが
いないときじゃないかなぁ。

「どうやったらいいんですか?」

「パーンといけばいいんじゃない」

「どういう選手になったらいいですか」

「ズバンといくような選手、以上」

ここで、ズバンってなんだろうと考えると、
百人が百人、答えが、ちがってくるんだよ。
糸井 自分で決裁をするようになるわけですね。
萩本 そう。

誰もやっていないことって、
いちばん、たのしいよ。
だって、誰もやっていないと、
すくなくとも、失敗がないもんね。

失敗を、判定できる人がいないんだから。
成功を、判定する人もいないんだけども、
やらないと、まちがいかどうかはわからないし。

だから、
ぼくが監督をやってヘンなことを言っていると、
変わった選手が出てくるかな、と思ってました。

だから、たとえば、去年、
都市対抗野球の関東大会の準決勝で
日立さんとやったときは、ぼく、
試合の途中で「あ、負けた」と思ったの。

選手が、バントしていて。
バントがいいとか悪いとかじゃなくて、

「なんでバントしたの?」

答えがたのしみで、きいてみたんです。

「相手、日立ですから。
 1点をとるのも
 たいへんだと思ったんで……手がたく」

ぼくは、そんな選手じゃなくて、
スターを育てたつもりでいたんですよ。

あ、終わったかな、と思った。
それまでは、
どんなにうまい人が集まっていても、
相手は、アマチュアだと思ってたの。

われわれは、スターとして、やってきたんだ。
もう、どっちが野球がうまいとかではなくて、
スターなんだから、スターは6対1で勝つだろう、
と、そういうものなんだと思っていたんです。

でも「1点とるのもたいへん」というのは、
これ、向こうがスターなんですよね。
そういう言葉が出てきちゃっていたら、
スター性で、向こうに負けているんですよ。
糸井 せっかくあった
「はなやかさ」
というとりえがなくなっちゃったんですね。
萩本 そう。

「バントぐらいしないと、
 点がいっぱい入っちゃうもんで、ね!」

そのぐらい言っていたら、うちの勝ちですよ。
スターのまんまの、セリフなんだから。

こちらの言葉が、向こうをスターにしちゃう。
これは、負けだ、と思いました。
糸井 なるほどなぁ。

(次回に、つづきます)
 
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