聞き書きの世界。
『木のいのち木のこころ』と塩野米松さん。


糸井 『木のいのち木のこころ』は
読み方によっちゃ
理不尽のカタマリだし、
大人の説教のように
思えるかもしれないけど、
若い人が真剣に読んで
共感しているのがいいですね。

ぼくは若い頃に斜めに構えていて
いろんなことを
素直に吸収できずに大損したんだけど、
最近は「こころ」の存在を
感じさせる人や考え方が、
やんちゃ盛りの若い人にも
求められているのが
うれしいなぁと思います。
世の中悪いことばかりではないなぁ、
と感じるから。

そんな本をおもしろがった若者への
さらなる解説としては、
内容よりも、塩野さんの
「聞き書き」という方法について話す方が、
親切だろうなと思いました。

塩野さんの聞き書きは
「いちどすべて聞いた後に並べなおした」
という痕跡がわかるんです。
目の前にいる人の脳を
再構築するような作業ですから、
自分の足であちこち歩いた後に、
改めて地図をつくりなおすような
大変な仕事といいますか。
塩野 一般的に取材をまとめるなら
もっとずっと早くできるのですが、
いちばん愚鈍な方法でやっています。
本人としては、
人に渡したくないほど
おもしろい仕事なんですけど。
糸井 ぼくもかつて
塩野さんにそっくりな方法で
『成りあがり』(矢沢永吉・角川文庫)
という本を作ったので、
聞き書きの醍醐味はわかります。
おもしろいものですよね。
塩野 ものを書く中では「聞き書き」は
編集者的な手法かもしれません。
ともかく聞く時間がものすごく長いから。

西岡棟梁の場合は
『木に学べ』という本から
『木のいのち木のこころ』
に至るまで十年程の期間がありました。
時間が経てば目を閉じていても
西岡棟梁の語りを
書けるような気がしましたし、
裏口から挨拶するような質問も
許されるようになりましたし、
年月が経つと
西岡棟梁の考えも変化しましたし、
そういう意味でも
聞き書きの過程はおもしろいですね。
糸井 塩野さん自身も
時間の変化を受けるし
「聞き書き」は紙に書いた質問を
やりとりするだけではないから
おもしろいですよね。

ひとりで書く文章なら、
作者は次に語る内容を知っているけど、
聞き書きはキャッチボール次第だから、
予定外の話が出ることになる……
本人も次の展開が読めない
おもしろさがあるし、
話して通じない言葉は使えませんし。
塩野

質問事項を
用意して聞くだけだと、
聞き書きは、
うすっぺらなものになりますね。

  (明日に、つづきます)

 
2005-06-13
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