1101
ケビン・山崎って、
どういう男?

誤解をおそれぬ直球トークを聞け!

第1回 センサーに逆らう練習

●筋肉を100%つかえるか
糸井 ひとの能力には
「本当はもっとあるのに出ない」
というのがありますよね。
野球でバットを振っても、振りが遅くなるのは
遅くするための筋肉を使うからじゃないですか?
例えば明日がないっていう野球の試合なんですが。
数年前の巨人対中日、10・8の優勝決定戦、
勝てば日本シリーズで負ければ休みという
それを見にいったら、明日試合がないとなると
こいつら本当におそろしいやつだなと思いました。
この日には、ストッパーがかかっていなかった。
ストッパーっていうのは他の仕事でも何でも
すべての鍵なんじゃないか?と思うんですよ。
かたくなってるのもストッパーになるし、
脱臼するくらいに手を振ることができれば、
もっと速い球を投げられるんじゃないか。
その邪魔をする筋肉の邪魔をゆるめるコツが
あるんじゃないかなあと思うんですよ。

ぼくの好きな例があるんですけど、ふつう
かかととお尻をつけようと思ってもつかない。
でも足を振ったらつくんですよね。
ケビン そうじゃなくて、
足をかかとにつけるといけないよ、という
脳からの命令があるからつかないんですよ。
生理学でいうと、センサーがあるんです。
糸井 お、それ、もっと言ってっ(笑)。
ケビン スピードにしても角度にしても、センサーがある。
足も本当はどこにでもつきます。やってみますか?
神経を切ればいいんです。横になってください。

はいいいですか、
ぼくの方向に向けて強く押してください。
ぼくをはねかえすようにしてください。
はい、もっともっと、3、2、1、はい、オフ。
もう一回力入れてください、オーケー。
もう1回ですよ、まだですよ、はいサンキュー。
わかります?つきます?これがPNFなんです。

(*PNF:
Proprioceptive Neuromuscular
Facilitation というリハビリ技術。
柔軟性の養成効果が高いために
スポーツ界でも取り上げられている)
糸井 ああ、これがPNF。ああ痛てて。
あ、今ちょっと足がさっきと違う。
これ、サーモメーターの設定を変えるんですね。
ぼくは足を振るとつくっていうのに
ヒントがあると思ってたんですけど。
ケビン それは、神経をごまかしているから。
逆側に振ることで神経を止める時間をなくしてる。
糸井 そこでセンサーを作動させないから動くんですね。
ケビン そうです。ゆっくり動かすと
「もうやめないとな」とセンサーがはたらくわけ。
糸井 精神的なことでもそれがあると思うんですよ。
「これは無理だな」というときは
センサーがはたらいているわけですよね。
そのときには筋肉を制御しているけど、
例えば受験の前で、どうしても
受からなきゃ殺されるとしたら、下手したら
英単語の100や200は覚えられるかもしれない。
覚えなくても生活に向くことが山ほどあって、
競争レベルがどんどん高まったときに
どれだけセンサーをはずせるかが
キーになると思う。精神的にもね。
ケビン うれしいこと言うね。
糸井 塾でドリルやって
「はいできたでしょ」っていうのも
精神的PNFだと思うんです。
ケビン これだけやったらできるみたいな負担をかける。
清原君のやってることはそのセンサーを、
他のことを考えることでオフにして、
その段階からセンサーに逆らうようにさせる。
オフにして動かせるようにしてやればいいんです。
だから足の角度を調節すると、
足を速くするのはかんたんなんです。
小学生だったら1秒変わるんじゃないですか?
糸井 ストッパーじゃなくてセンサーなのか。
その違いは大きいですね。
●パーソナルトレーナーとは何か?
ケビン はい。ただ、ぼくはそれ専門じゃないんですよ。
それはアスレチックトレーナーの仕事なんです。
ぼくはパーソナルトレーナーです。
スポーツ選手が怪我したときに
スポーツドクターと相談して復帰させるのが
アスレチックトレーナー。
ただアスレチックトレーナーは日本にはいないです。
日本にいるのは接骨院とかフィジカルセラピストで、
一般のひとを対象にするひとが兼任してるだけです。
スポーツ選手の場合はこれは違うんです、
動かなきゃいけないし、次の日に試合があるから、
だからトレーニングのしかたも
テーピングの位置も違うんですよね。
糸井 リハビリっていってもスポーツ選手の場合には
「普通の生活でここまでやれるといい」とは
全然違いますからね。壊れてもいいっていう
レベルの違うところでやってますから、
誰もがやるわけにはいかないですよね。
ケビン はい、全然違います。食事も違う。だけど
一般のひとと同じにやってるのが日本の現状です。
糸井 昨日ゲットスポーツで
(テレビ朝日系のスポーツ番組)
セルジオ越後が怒ってるのをやってたんですよ。
オリンピックに出られればそれでいい、
という風潮に、すごく怒ってるの。
「何のために出てるんだ、金メダルが欲しいんだろ、
 サッカーで金メダルを取る力があると思わないと
 オリンピックに出る意味がないでしょう!」
ってすごく怒ってる。それ、今の考えと近いですよね。
つまりセンサーが違うんですよ。よくやったなあって
オッケーしちゃったら、目的のレベルが低くなる。
高いところを目指すからこそ
急に事故が起こるかもしれないし、
ラッキーがおこるかもしれない。
そこをやるかやらないかというところは
思想的にはどうなんですか?
ケビン 思想はわからないですけど、
フィットネスということをぼくはやってるんです。
有酸素と無酸素を使って健康になるのが
フィットネスで。
だけどフィットネスクラブでプールを見ると、
あれ何でだかわからないんですよ。
プールはスポーツですから、
アスレチッククラブでやるならわかるけど、
何でやるのかがわからない。だから、
ぼくのいるフィットネスクラブには
プールがないんです。
プールっていうのは筋肉をつけるのにも
脂肪焼くのにも最短距離じゃないし、
スポーツクラブでやるものなんです。
糸井 それはエビフライみたいなもんですよ。
豪華そうで。
ケビン フィットネスの横には鍼灸があって、
カイロプラクティックの先生がいるんですけど、
日本の場合にはその先生が全部やるんですよ、
パーソナルトレーナーは上にいるだけで、
ぜんぶはやらない。ぼくはパワーが好きだから
ストレングスを担当しているんですけど、
あとは提携。だからぼくはスピードやらないです。
日本の場合よくないのは提携しないですから。
うちの場合は何度かそちらに紹介しているうちに
今度はうちを遠さないで直接やりたいとか、
そういうのもOKです。
流れのなかで変わっただけですから。
糸井 全部の面で「うちのほうがいい」っていうから。
ケビン ある分野で15年やれたひとに正直言って
勝てるわけがないですから。
逆にぼくが15年やったことは彼も勝てない。
そこはお互いにリスペクトして協力する。

TK高阪さんもきてくれたのだ。
(つづく)

2000-02-22-TUE

BACK
戻る