憲法にわくわく? 伊藤真さんの考え方は、目からウロコだった。
第3回 憲法改正論はここまで来ている
今日からは、第1章より順を追って、
本の内容をご紹介したいと思います。

〔第 I 部 明日は国民投票!その前に〕の
第1章は〔なぜいま憲法改正なのか〕です。

いま、改憲論はかなり熱いです。
9条の問題だけじゃなく、
前文、国民の義務、
プライバシー権、環境権といった新しい人権など
とても広い範囲にわたっています。

「本当? そんなの
 一部のマスコミが騒いでいるだけじゃない?」
と思われるかもしれませんが、
「憲法を改正しよう」という動きは、現実として
ちょっとびっくりするぐらいのところまで
進んでいます。

たとえば、
先ごろ、衆議院と参議院に設けられていた
「憲法調査会」という公の機関が
「憲法改正」にかなり踏み込んだ内容の
報告書を提出しました。
国会に、このような機関が設けられたのは
戦後初めてのことです。

この秋には自民党が、新憲法の草案を
具体的な条文のかたちで発表する予定です。

テレビ局や新聞社の世論調査でも
「改正すべき」「改正してもかまわない」
という意見は、どこでも大抵6割を超えます。

「憲法を改正すべきだ」という話は
いまの憲法が施行されて
10年も経たないうちからありました。
だから、憲法の歴史は、
そのまま、改憲論の歴史でもあります。
でも、最近の改憲論の高まりは、
明らかにこれまでのものとは違うと、
伊藤さんは見ています。

憲法改正について無関心である
イコールこの問題について中立的である
……と、つい思ってしまうのですが、
実際はどうもそうじゃない。
いまの日本では、無関心であることは、
改正の動きを邪魔しない、という意味で
消極的な賛成と同じ、
……と言ってもいいぐらいです。

だから、無関心を決めこまないで、
「憲法を改正しよう」という大きな声を
ぜひ疑ってみる姿勢をもってほしいと、
伊藤さんは言います。

「いまの憲法は、もう古くて時代にそぐわない」
「いまの憲法は、アメリカに押しつけられたもの
 だから、日本人にはわかりにくい」
……新しいとか古いとか、
わかりやすいとかわかりにくいとか、
それは、まったく本質的なことではないと
伊藤さんは言い切ります。

あまたある改憲論で見極めなければいけないのは、
「国民の自由を守るために、
 国家権力に歯止めをかける」ものである憲法を
「誰が、なんのために」変えたいと思っているのか?
それで国民「全員」がより幸せになれるのか?
ということ。

憲法改正に異議を唱える、いわゆる護憲派は
ちょっと、からかい気味に
理想主義者とかロマンチストと
言われてしまうことが多いのですが、
伊藤さんの憲法についてのまなざしは、
とても現実的で冷静です。

そして、そのリアリストの立場からみて、
いまの改憲論議でただ1つ、とりあげるに値する
問題は、やはり9条です。

が、9条については、
あとの章であらためて扱っていますので、
第1章はとりあえずここで終え、
次に進むことにしますね。

第2章は〔「国民投票」を知っていますか〕です。

国民投票については何度かお話ししましたので
「憲法改正には国民投票ってものがあるらしい」
ということは、
インプットしていただけたかと思います。

では、どうして憲法を改正するには
国民投票が必要なんでしょう?

憲法をできるだけ変えにくくするため、
というのが、1つの理由です。

憲法は、その国の法体系のトップに位置して
権力の暴走に歯止めをかける、重石のようなもの。
そう簡単に改正できるようだと、
重石としての存在意義がなくなってしまいます。

だから、憲法96条では改正について、
2つの大きなハードルを定めています。
1つは、憲法改正案が国会を通過するためには、
「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」が必要
というハードルです。
ふつうの法律は、
「出席議員」の「過半数」の賛成で決まるので、
それと比べると、かなりの難関です。

次にクリアしなければいけないのは、
「国民投票で過半数の賛成を得る」という
ハードルです。

日本は、私たちが選挙で代表を選び、
その代表が国の政治の重要事項を決めるという
代議制・間接民主制を採っている国です。
でも憲法改正(と、その他いくつかの事項)だけは、
国民が直接イエス・ノーを意思表示して決めます。
だから、国民投票は、そのこと自体
とても特別な意味を持っている制度です。

この国民投票の手続きを決めるのが
まだ存在しない「国民投票法」という法律です。
「どうせただの手続きなんだから、
 さっさと決めちゃえば?」
そう思うでしょう?
でも、それはちょっとマズいんです。
なぜなら、国民投票法の決め方によっては
重石であるべき憲法が、
簡単に変えられるものになってしまうかも
しれないからです。

では、国民投票法をどのように決めたら
そんなことができてしまうのか?

第2章ではこんなふうに、
第1章とはまた別の角度から、
「憲法改正」について考えます。

……というところで、第 I 部はおしまい。
次回は、第 II 部〔もっと知ろう、憲法のこと〕。
実際の条文なども紹介しながら、
いよいよ憲法そのものの中身に入りますね。
2005-07-19-TUE
 
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