カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

12月の金曜日、よく晴れた昼下がり。
JR西荻窪の駅に降りた僕は、
地図を片手にそのお店をたずねました。
「カランコロンカラ〜ン」と扉をあければ、
とても穏やかな「いらっしゃいませ」の声。

店主の芹沢章正さん(37)は、
やわらかそうなその物体を、
そっとやさしく手にとるのでありました。


第30回
ひつじはカワイイ。

芹沢 ふわふわひつじといいます。
山下 ふわふわひつじ。
いいですねえ、首からベルをさげて……。
スポンジケーキですよね。
芹沢 ええ、こういう型で焼くんですよ。
山下 そうですかあ、これで。
芹沢 フランスのアルザス地方の窯で
つくられた型なんです。
ちょっと開けてみてください。
山下 はい(開ける)。‥‥‥‥わあ。
芹沢 ね? ひつじでしょ?
山下 はい、みごとにひつじです。
‥‥あそこの棚にも型が並んでいますが、
あれもぜんぶ?
芹沢 そうです、現地で手に入れてきたのですが
それぞれにみんなちがうんですよ。
‥‥ちょっといくつかおろしてみますね。
山下 あ、すみません、お手数かけて。
芹沢 いえいえ(型をテーブルにおろす)。
‥‥よいしょっと、ほら、ね?
山下 ほんとだあ。いやあ、おもしろいです。
‥‥しかし、ケーキもそうですが、
このお店にはひつじがいっぱいですね。

芹沢さんのお店の名前は「三月の羊」。
奥様の久子さんとおふたりで開かれている、
西荻窪の路地奥の、ちいさなお店です。
10名ほどでいっぱいになるカフェ、
ていねいにつくられたお菓子とパン、
雑貨や絵本も愛らしく並べられています。
「かっちんこっちん‥‥」
古い掛け時計の音が静かに響き、
大きな窓からは午後の光がやわらかく‥‥。
そんな、ゆっくりと時間が流れる店内で、
丸い眼鏡におひげがお似合いの芹沢さんから、
ひつじのお話をうかがってまいりましょう。


山下 こちらの、パンとケーキのなかにも‥‥。
芹沢 いますでしょ?
山下 いますいます(笑)。ひつじパン!
芹沢 卵をつかっていないプレーンなパンです。
山下 目と鼻が、干しぶどうで‥‥。
なんだか、きょとんとしてますね。
芹沢 そうですか(笑)。
山下 あ、こちらのお菓子もひつじで‥‥。
やっぱりきょとんとしてます。
芹沢 はははは。
山下 ん? わわわ! これはなんでしょう?
芹沢 それは、ラムラムといいます。
山下 ラムラム?
芹沢 メレンゲにすこしラム酒を加えまして‥‥。
山下 あ、それをひつじの顔にして、
Rum Lambというわけですね。これもまた、
ひとつひとつ顔がちがっておもしろいです。
芹沢 その日の気分で変わっちゃうんですよ(笑)。
山下 ‥‥あの、芹沢さん、
芹沢さんは、なぜこんなにも
ひつじ好きになられたのでしょう?
芹沢 そうですねえ‥‥。
母親が編み物教室をやっていて
家に毛糸がいっぱいあったので‥‥。
ひつじの質感とか色彩を好きになったのは
母親の影響かもしれませんねえ。
山下 ああ、小さいころから‥‥。
失礼ですが、芹沢さん、お歳は?
芹沢 37になります。
山下 ということは、干支は‥‥。
芹沢 ひつじ年でございます。
山下 そうですか! もしかして誕生日も‥‥。
芹沢 3月でございます。
山下 それでお店の名前が
「三月の羊」なのですね!
芹沢 (笑)はい、それもありますが、
ほら「八月の鯨」という映画がありますでしょ?
山下 はい、すてきな映画でした。
芹沢 それとか、フランス語でエイプリルフールを
「四月の魚」と言ったり‥‥。
何月の何々って響きが好きなんですよ。
山下 なるほどお‥‥。
ひつじ年で3月生まれのかたが、
こういうお店をなさっているというのは
とてもぴったりだし、すてきだと思います。
芹沢 ありがとうございます。
山下 ちなみに僕は「八月の寅」なのですが、
どんなお店をやるといいんでしょうね‥‥。
芹沢 「八月の寅」ですか‥‥‥‥。
山下 はい‥‥‥‥。
芹沢 そうですねえ‥‥‥‥。
山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥。
芹沢 ‥‥‥‥‥‥ぎょうざ屋さん?

それから僕は、カフェコーナーで
ひつじパンと、ひつじのミルクと、
羊乳入りのチーズケーキをいただくことに。
芹沢さんが奥で用意しているあいだ、
山下は店内をきょろきょろ見渡しています。


山下 ‥‥(奥に)芹沢さーん。
芹沢 (奥から)はい、なんでしょう?
山下 こちらに絵本がありますが、
これ、販売なさっているのですか?
芹沢 ええ、そうですよ。
山下 絵本のコーナーもあるのですね‥‥。
芹沢 いや、コーナーといいますか、
そこが一軒の絵本屋さんなんです。
山下 え?
芹沢 「ねこひ」という名前の、
世界一ちいさな絵本屋さんです。
山下 「三月の羊」のなかに「ねこひ」という
絵本屋さんがあるわけですか。
芹沢 そうそう、そうです。
「ねこひ」の店長がいますでしょ?
山下 え? 店長? どこにですか?
芹沢 その、いちばん上の段の左に‥‥。
山下 ここですか?
芹沢 そうです。のぞいてみてください。
山下 はい‥‥‥あっ! あははははは!
いました! 店長がいました!!
芹沢 (奥から出てくる)お待たせしましたー。
こちら、ひつじパンと、ひつじのミルクと、
羊乳入りチーズケーキでございます。

山下 わあ、ありがとうございます。
ひつじのミルクというのは初めてなので、
ぜひ、これからいただきます(飲む)。
‥‥ああ、濃いですねえ、動物の味がします。
芹沢 それでは失礼して(何かを取り出す)。
「メエエエエエエ」

山下 な、なんでしょうか、それは。
芹沢 横にすると「メエ」と鳴く、
北海道のおみやげでございます。
山下 ははは、ありますねえ、そういうおみやげ。
芹沢 羊乳を召し上がった方には、
この特典がつきます。
山下 (笑)ほんとうですか?
芹沢 はい(笑)。で、きょうは特別サービスを‥‥。
山下 あ、そんなところにオルガンが‥‥。
芹沢 (弾く)♪♪♪♪♪♪〜♪♪♪〜
山下 そのメロディは!
芹沢 せっかくですので「メリーさんのひつじ」を。
(弾いている)♪♪♪♪♪♪〜♪♪♪〜
山下 ‥‥‥♪ひつじー、ひつじー、真っ白ねー。
(拍手)いやあ、ありがとうございます!
芹沢 そうだ、こんなのもあるんですよ。
(立ち上がり、長い棒をつかみ、
 何かを首にぶら下げる)
山下 それは?
芹沢 羊飼いの杖と、牧羊犬をあやつる笛です。
ニュージーランドから取り寄せました。
山下 す、すごいなあ‥‥。
芹沢 (笛をくわえる)ピュウイ〜、ピュウピュウ。
山下 ほお〜。
芹沢 ピュウ、ピロピロピュ〜、
山下 ほほお〜。
芹沢 ピュッピュッピュウウウウ〜、
ピュウ、ピロロロロロロロロロロロ‥‥

「カランコロンカラ〜ン」
女性のお客様がいらっしゃいました。
扉を開けて、きょとんとなさっています。
何事もなかったかのように接客する芹沢さん。
山下はテーブルへと戻り、
パンとケーキを完食してから支払いを済ませ、
混みはじめたお店を後にいたしました。

帰り道は、もうずいぶん冬。
家に着いた僕は、
あたたかいコーヒーを淹れると、
買ってきたおみやげをひとつ
ぽとんとカップに浮かべるのでありました。


「きょうもたのしかったねえ」




ふんわりと、かわいかった。

「三月の羊」さんの店内には、
まだまだたくさんのひつじが隠れています。
ぜひ足を運んで探してみてください!
アクセスや営業時間など、
くわしくはHPで。(下の画像をクリック!)

http://www.rum-lamb.com/

ちょっとみつけにくい路地の奥にあるので、
お店そのものも、よーく探してくださいね。
めじるしは、この看板です。
注意して!

2004-12-15-WED

HOME
戻る