カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

晴天の平日、正午を少し過ぎたころ。
僕は相模湖上流にある藤野という駅に到着。
FAXで送られてきた地図に
「ココ→」と記された一軒家を訪ねます。
途中、湖を見晴らす大きな橋を渡って‥‥。

出迎えてくださった竹嶋浩二さん(47)は
僕を広いリビングへ案内すると、
窓辺に並べられたきらめく車体を
目を細めながら指さすのでした。


第12回
自転車はカワイイ。



山下 あ、家の中にしまってるんですね。
竹嶋 ええ、最近はぜんぜん乗っていなくて、
もう2年以上ここに飾ってるだけなんです。

イラストを描いたり立体作品をつくったり、
それが竹嶋浩二さんのお仕事です。
僕が竹嶋さんの作品に初めて出会ったのは、
引田ターセンさんのギャラリーでした。
そこで竹嶋作品に触れてから僕は、
「あれをつくったり描いたりした人は
ぜったいカワイイもの好きに違いない」
ずっと、そう思い続けていたのです。


山下 日本の自転車ではないですよね。
竹嶋 ええ、ヨーロッパの古いツーリング車です。
山下 ヨーロッパものですか。
竹嶋 こっちの2台がイギリスで、
その下にあるやつはフランス製ですね。
山下 これがフランス‥‥あれ?
竹嶋 なにか?
山下 このフランスの、椅子がふたつです。
竹嶋 ええ、はい、サドルふたつ。
タンデムシートですね。
山下 ‥‥あの竹嶋さん、
お願いが、あるのですが‥‥‥‥。

平日の昼下がり、
湖畔の静かな住宅地に
男ふたりの声が響きます。


竹嶋 いきますよ、せえのお‥‥。
山下 あ、わわわわわ。ば、バランスが‥‥。
竹嶋 もっと強く踏み込んでください!
山下 どうにも、グラグラして、わわわ‥‥。
竹嶋 (ブレーキ)まだ不安定ですね。
山下 あの、僕いっかい降ります。(降りる)
竹嶋 え? どうかしました?(降りる)
山下 そういえば自転車の全体像を撮ってなくて‥
一枚いいですか? 失礼します。(撮る)
竹嶋 ‥‥‥‥あの、山下さん。
やはり片手にカメラを持っているから
うまくいかないんだと思うんです。
両手でしっかりハンドルを握らないと。
山下 はい。
竹嶋 それに、危ないですし。
山下 ‥‥すみません。(カメラをポケットに)
竹嶋 じゃあ、(乗る)も一度、いきますか。
山下 はい、(乗る)お願いします。
竹嶋 せえのお‥‥。
山下 よいしょ。‥‥‥‥あ!
ほんとだ、すごく安定します!
竹嶋 じゃ、そこを左に曲がりますよ。
一緒に体重を傾けてください。
山下 はい‥‥。
竹嶋 ‥‥いいです、その調子です。
山下 ははははは、これは爽快ですねえ。
竹嶋 感覚つかめました?
山下 はい、もうかなり安定してます。
(よし、気づかれないよう一枚だけ‥‥)
竹嶋 山下さん、
山下 は、はい!(カメラしまう)
竹嶋 タンデムシートのいいところはですね、
こうして会話をしながら乗れることなんです。
山下 そ、そうですね、声が近いです。
自転車2台で走っていると、
相手の声が聞こえなくなったりしますものね。
竹嶋 そう、これ一体感あるでしょ?
山下 はい、とても。
で、あの、これからどこへ行きましょう。
竹嶋 どこへでも。
山下 どこへでも! いいですねえ!
では、せっかく相模湖に来たので
水ぎわに行きたいです。
竹嶋 わかりました、上流の川原に行きましょう。
山下 そうだ! そこでお話もきかせてください!
竹嶋 了解です。
‥‥さ、ここから登り坂、きついですよ。
山下 はい。‥‥‥やや、こ、これは、また。
竹嶋 大丈夫ですか。
山下 ‥‥ホント、運動不足なもんで、ふうはあ。
竹嶋 ‥‥降りて引いていきましょうか。
山下 いえ降りません! はあはあ。
竹嶋 (笑)がんばって、もう少し。
山下 はあはあ、はあはあ、はあはあ‥‥。
竹嶋 ‥‥よしと(ブレーキ)。ここが峠ですね。
山下 はあはあ(降りる)はあはあ‥‥やった!
竹嶋 ふー、(降りる)きつかったですね。
山下 ええ‥‥はあはあ(振り返り)
この坂を、はあはあ、登って、はあはあ、
きたんですね。写真撮っておこう。
右がカメラを構える僕、左が竹嶋さん。

竹嶋 はい、水どうぞ。回し飲みですけど。
山下 やあ、これはこれは、ありがたい。
山下 (飲む)‥‥ああー、おいしいっ!!
竹嶋 (笑)ひと息ついたら川原へおりますよ。
自転車、持っていったほうがいいですよね。
山下 ぜひ、川原で自転車の写真を‥‥。

重たい自転車を連れて、僕たちは
けっこう険しい山道をくだります。
途中、自転車を引いて進めない場所が
わりとたくさんあったりして、
そこはふたりで「よいしょ」とかついで。
ぜえぜえ言いつつ、なんとか川原に到着。


山下 ‥‥‥‥では、あらためまして、
自転車についてきかせていただけますか。
竹嶋 はい、まあ、こういうヨーロッパのですね、
古い自転車が好きなんですよ。
山下 スポーツ車ではないですよね。
竹嶋 そう、ゆったり乗れる実用自転車ですね。
競技用じゃないので軽量化されてないんです。
山下 重かったです(笑)、フランスくん。
竹嶋 あ、そうそう、ほらここ、
ボルドー(BORDEAUX)って書いてるでしょ。
山下 あ、ワインの?
ボルドー地方でつくられたんですかね。
竹嶋 ええ、おそらくは。
山下 それは、いつごろ?
竹嶋 たぶん1940年代ですね。
山下 そんなに‥‥。よくちゃんと動いてますね。
竹嶋 骨董屋で買ったときはボロボロでしたよ。
それをリストアするんです。
山下 ああ、手がかかってるんですねえ。
竹嶋 そう、なにしろ古い物ですから
パーツひとつ探すのも大変で‥‥。
ほら、ライトも、これガラスですよ。
山下 ほおんとだ。
竹嶋 ここなんか、アルミの部品がないから
給食のお盆を切ってくっつけて直しました。
山下 はあ〜、すごい、すごいなあ。
竹嶋 前が2段、後ろが3段ギア、
ブレーキはドラムブレーキなんですね。
山下 最近の自転車とは違いますか。
竹嶋 そう、まったく違ってて‥‥。
あの‥‥話がマニア向けすぎます?
山下 いえいえ、たのしくうかがえてます。
竹嶋 そうですか。
山下 僕は、この泥よけが好きです。かわいい。
竹嶋 そうでしょお? それとですね‥‥。

古くておしゃれな自転車のお話を
しばらく僕はうかがいました。
やがて、川原風で体が冷えた僕らは
来た道を戻ることに。
なんと! 帰りの下り坂は
山下が前を運転させてもらいました!


山下 わあああああああ、きっもちいいなあ、
前に乗ると風が直接ぶつかってきます!
竹嶋 も、もうすこしブレーキかけませんか。
山下 お、坂が終りますね。それじゃあ‥‥。
竹嶋 あ、いいです、ギアは変えなくていいです。
山下 ここは軽くしたほうが(ガチャガチャ)。
竹嶋 無理にやると壊れますから。
‥‥‥‥あ、こんにちは、先日はどうも。
山下 ‥‥‥‥‥‥いまの方は?
竹嶋 ご近所さんです。
山下 ‥‥あの。‥‥ふと、思ったんですけど。
竹嶋 はい。
山下 僕たち、これ
どういう関係に見えるんでしょうね。
竹嶋 うーん‥‥‥‥‥‥‥。
山下 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
竹嶋 ‥‥‥‥‥‥‥ともだち?

無事、竹嶋さんのお宅につくと、
散歩に出かけてらした奥様と、
1才の息子さんが戻ってらっしゃいました。
(↑文句なしでカワイイ!)
それから僕は竹嶋さんのアトリエで
作品の数々をみせてもらうのです。
話がはずんで、気がつけば午後の7時。
すっかり長居をしてしまいました。

おいとましてから藤野駅までの道、
大きな橋から見る湖はもう真っ暗。
遠くに竹嶋さんの家が見えます。
アトリエの窓が、
だいだい色に光っていました。




爽やかに、かわいかった。

竹嶋さんの作品のギャラリー、
とてもシンプルなものですが
僕つくってみました。
こちらです。
竹嶋さんは「カワイイ」を
なかなか口にしない方でしたが、
作品、ほんとにかわいいのです。

2004-03-03-WED

HOME
戻る