カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

午後1時過ぎの吉祥寺、晴天。
駅から歩いて10分ほどの場所に、
そのおすしやさん「大益」はありました。

ご主人の小久保勝雄さん(推定55才)は、
「キノコみたいでしょ」と、
カウンターの上で光る不思議な物体を
ゆびさすのでした。


第10回
アールヌーボーはカワイイ。



山下 (笑)お、おもしろい形ですねえ。
‥‥と、とりあえず、おすしを。
小久保 おすし‥‥。
らんちで、よろしいですか。
山下 は、はい、それでお願いします。

山下哲は、緊張しています。
おすしやのご主人への取材‥‥。
小久保さんは思っていたほど
強面の方ではないけれど、
それでもやっぱり
職人さんは雰囲気が違います。

おすしが出てきました。
緊張してても、おいしい‥‥。

やがて、お昼の繁盛時は過ぎ、
店内は、僕と小久保さんの
ふたりっきりに‥‥‥‥。
とにかく、この、堅い空気を
僕はなんとかしなければ!
‥‥怒られたりするかな‥‥
ままよ!


山下 小久保さん。
小久保 はい、なんでしょう。
山下
握っていただきたいのですが。
小久保
なに握りましょう。
山下
その、小久保さんがですね、
いちばんかわいいと思うネタを。
小久保
‥‥は? かわいい、ですか。
山下
‥‥はい。
小久保
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥わかりました。
山下
(怒られなかった!)
小久保
‥‥‥‥これで、どうですかね。
山下
あ‥‥わあ、こはだ、ですか。
小久保
姿かたちがね、そういう感じでしょ?
山下
はい! ありがとうございます!
記念に写真を‥‥
山下
手乗りこはだ。
小久保
ははははは。
山下
(やさしい人だ!
 小久保さんはやさしい人だ!)
小久保
(笑)ちゃんと食べてくださいよ。
山下
もちろんです。
で、あの、小久保さん、本題なんですが。
小久保
あ、はいはい。
山下 この、お店の中にある
すごいきれいなガラスのものがぜんぶ、
アールヌーボーなんですね。
小久保 ええ、そうです。
山下 そうですかあ‥‥。まず、このランプ、
これはどういう?
小久保 はい、それは、ガレの作品です。
山下 ガレ‥‥はい、聞いたことあります。
小久保 いちばん有名ですよね。
山下 あの、小久保さんは、どういうきっかけで
アールヌーボーに出会ったんです?
小久保 たまたま骨董屋さんでみかけたんですよ。
山下 それはいつごろ?
小久保 あれは何年前でしたか‥‥
もう30年くらい経ちますかねえ。
山下 そんなに前ですか。
小久保さんまだ20代ですね。
小久保 ええ、すしやに勤め始めたばかりのころです。
山下 そのころ、骨董屋さんで、
これだ! と思った。
小久保 そうです。なんって、こう、美しいだろう、
きれいだろうって‥‥
カルチャーショックを受けたんです。
山下 きれいですよねえ。
小久保 はい。それで、お店の人に聞いてみたら、
フランスのアールヌーボーっていって
19世紀の終りから20年くらいの間に
つくられたものだっていうじゃないですか。
山下 はいはい。
小久保 いいなあ! って、思うわけですよ。
でも値段をみると、これが高くて、
とても手の届くもんじゃないんです。
山下 まだ20代だし。
小久保 そうです、あこがれですよ。
それで、それからほんとうに少しずつ
長いことかけてお金を貯めては、
そういう小さいのから買ったんですね。
山下 これも、ガレ?
小久保 いや、それはガレではなくて、
ドームという作家のものです。
山下 こちらは?
小久保 ミューラーです。
山下 こういうのを何年もかけて‥‥。
小久保 ぽつぽつと、買っていきまして‥‥。
山下 現在に至る。
小久保 はい。
山下 そうですかあ‥‥。
奥様も、やっぱりお好きなんですか?
小久保 かみさんですか? ええ、
かみさんも、こういうものは好きです。
でも、文句は言いますよね。
山下
あ、言われちゃいますか。
小久保
好きなことは好きなんだけど、
でも、ここまでやる必要はないって言います。
山下 はははは。
小久保 でもね、カウンターだけの狭い店だし、
いちんちじゅうそこで働いてるわけだし、
僕はきれいなもんを並べていたいんです。
やっぱし、気分よく仕事ができますよ。
山下 ほんと、きれいなものいっぱいですよねえ。
小久保 ありがとうございます。
山下 とくに、このガレとかミューラー‥‥。
小久保 いいでしょお。
山下 ええ。
小久保 そう、いいんです、いいんだよなあ‥‥。
山下 いちばんのポイントはどこでしょう。
小久保 光、ですね。
山下 光ですか。
小久保 ほら、みてください。
山下 ああ、それもきれいですねえ。
小久保 幾重にも重なったガラスの、この光。
‥‥よし、もっとみえやすくしましょう。
山下さんちょっと待っててください。
山下 あれ? 小久保さんどこへ?
小久保 いま、いくつか、あかりをおとします。
山下 え? あ、はい。
小久保 いいですか、いきますよー。
山下 はい。
小久保 そら(パチン)。
山下 ‥‥‥‥わあ。
山下 わあああ‥‥。
小久保 ね、この光なんですよ。
山下 はい、もう、ああ‥‥。
小久保 なんともいえないでしょ。
山下 電気なのにロウソクの灯みたいですね。
小久保 そう、やわらかいんですよ。
山下 やさしいかんじもするし‥‥
ケーキのロウソクを思いだしました。
小久保 ああ、はい、そうですねえ。
山下 お誕生会みたいだ。
小久保 え? ‥‥はははははは。



んー、まろやかに、かわいいかったあ。

近海物の極上ネタにこだわる 
「大益」の場所は下に。 
素晴しいのは 照明だけではありません、 
おすしそのものも、ほんとに絶品なのです。
らんち2,800円
にぎりのコース6,000円

寿司とか鮨じゃなくて、
“おすし”っていうのがまたカワイイ。

外観もアールヌーボー調。

東京都武蔵野市吉祥寺本町4-13-2
TEL0422-21-3235〈月曜定休〉


2004-02-12-THU

HOME
戻る