主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート64
方向オンチの科学。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
前回、空間能力の男女差の科学のおはなしをしました。
そこで募集した方向オンチエピソードに対して
いろいろとご意見を頂戴しました。
まことにまことにありがとうございます!!

自他共に認める方向オンチである研究員A。
みなさまのご意見のおかげで、
「そう気にするレベルでもないかも」と
勇気づけられました。
心からお礼申し上げます。

‥‥って、そのためのご意見募集じゃなくって!!
頂いたご意見はひとつひとつ
カソウケンの方向オンチの研究に
たいへん有用な情報でありました。
ありがとうございました〜!

前回の「空間能力の男女差の科学」のとき
「どのようにしてこの男女差が生まれたか?」
を説明する、こんなひとつの仮説があることを
ご紹介しました。

「狩猟を担当する男性は、あらゆる角度や視点から
 風景を認識する必要があった。」

そんな仮説を目にすれば
・ということは男性は方向感覚が優れているのでは?
・空間能力と方向オンチには関連があるのでは?

という疑問が頭に浮かびます。

実際、研究員Aは道に迷うことに関しては
絶対的な自信があります。
さらに前回紹介した心的回転テストも苦手。
「地図が読めない女」といわれるように
一般に女性の方が方向オンチと言われますが
研究員Aの場合はあてはまっております。

そこで今回のレポートは
方向オンチをテーマにしてお送りします〜。

男は方位と距離をたよりに、
女は目印をたよりにする?

そもそも方向オンチの定義は難しいもの。でも!
「道順を覚えるのが上手か下手か」が
方向オンチに関連するってことは
みなさんに同意していただけるのではと思います。

その「道順学習」の能力と空間能力の関係を
探った研究があります。
それをご紹介しましょう。

机上の地図を使って
被験者にある道順を覚えてもらいます。
実験者が道順をたどって見せて
その道順を再現してもらうのです。

その結果‥‥男性の方が短時間で道順を
マスターできたとのこと!
どうやら道順学習に関して男女差はあるみたい。

そして面白いことに
「道順を『どのように』記憶したか」
ということに関しても
男女間で違いが見られたとか。
男性は地図上の方位(東西南北)と距離を
女性は目印や通りの名前を
詳しく覚えているという傾向があった

ようです。

さて気になるのは「空間能力」と
この「道順学習の能力」関係。
男女とも
心的回転テストの得点が高い人は
 道順学習の得点が高い」
という相関関係が見られました。

来た道なのに戻れないのは、なぜ?!

それでは、空間能力(心的回転能力)はどのようにして
「道を覚える」ことに役に立つのでしょうか?

ナビゲーションのスキルのなかでは
頭の中に地図を描いて(認知地図と呼びます)
それを頭の中で回転させる
心的回転の能力を必要とするのだとか。

例えば、ある場所に行ってそこから戻ってくるときには
行きと方向を逆にして考えなくてはダメですよね。
さらに、別ルートで戻るときなどは
以前に断片的にみたルートの各部を
組み合わせる能力も必要とされるのです。

というわけで
・頭の中の地図(認知地図)を作る
・認知地図を自由に回転させる
の二つの要素が必要となるのです。

だから、心的回転の能力が高い人ほど
認知地図を頭の中で回転させるのがうまい。
そんな人こそ道順学習が得意だというのは
納得できる説明です。

一本道を歩いていて左手にあるトイレに入るために
左折しますよね。その後、さっき来た道をもどって
元の場所に帰りたいのに、トイレに入るための
「左折」を体が覚えていてトイレから出たとき
左折しちゃうんです。そして「元いた場所」から
どんどん遠のいていってしまうという‥‥。

(譲さん)

方向オンチ話の代表とも言える
「来た道を戻れない」エピソード!
これはまさに、まさに
「認知地図が作られていない
 地図を頭の中で回転できない」
から起こる現象なのでしょう。

とはいえ、
「空間能力はあると思うんだけど
 それでも方向オンチらしい」
という方も何人かいらっしゃいます。
上で紹介した実験結果では、
「道順学習の能力と心的回転の能力は相関がある」
となっていますが、そう簡単な話ではないのかも。

おそらく、
・頭の中の地図(認知地図)を作る
・認知地図を自由に回転させる
の2つの要素のうち、ひとつめの
「認知地図を作る」方をしていない。
だから、せっかくの空間能力が
活かされていないのかなーなんて
研究員Aは思います。

このような人が認知地図を作ることを意識し始めるだけで
ぐっと方向オンチじゃなくなる気がします。

頭の中に方位磁石があるの?!

さて、道順を覚えるときのやり方で
・男性は方位・距離型
・女性は目印型
が多いと上に書きました。
確かに、頭の中にぐるぐるまわす
地図を作ることができる、ってことは
そのために必要な「絶対的な座標がある」ことが
ポイントになりますよね。
その指標が東西南北になる、と。

道を説明するとき「右・左」
挙げ句の果てに「上・下」まで使って
説明する研究員Aに対し
「頭の中で方位磁針を意識していないの?」と
呆れかえった我が夫・所長。
研究員Aにしてみれば
その「方位磁針云々」の発言自体が驚きであります。
んなもんあるわけないーー!!。

そして「睡さん」から頂いた次の体験談。
自動車学校の路上教習のときのおはなしです。

地図上では問題なくコースを設定できるし、
信号の順番どころか道路脇のお店の順番まで
覚えておける人なのですが、
それが本物の道になった瞬間、わからなくなるんです。
面白いくらいサッパリわかりません。
教官が「そこを北に右折」と言われても
全然わからないんです。北って何だっけ‥‥みたいな感じ。
2ケ月後に何とか免許は取れたものの
それからは怖くて5ミリたりとも運転していません。

(睡さん)

研究員Aと同じく、「東西南北」の概念を
持たない方とお見受けしました!
「北に左折」なんて‥‥研究員Aも途方に暮れます。
きっとその指導員に当たったら
永遠に免許を取得できないでしょう。

ここで「睡さん」及び自己の弁護のために
言い訳を考えてみましょう。
正確には「東西南北の概念を持たない」
わけじゃないんですよね。
東西南北の情報を脳からすぐに取り出せない、
と言う方が正しいかも。
研究員Aなんかは、東西南北を考えるときに
毎回・毎回!世界地図を頭に思い浮かべます。
「上が北、下が南
 そしてロシアに接している方が東欧だから‥‥右側が東」
‥‥なんとまどろっこしい!
処理速度の遅い数世代前のコンピューターのようです。
研究員Aにしてみれば「東西南北」を「左右」と同様に
瞬時に判断できる人がいること自体、信じられませぬ。

とはいえ、こんな強者も。

主人がまったくの方向音痴です。
結婚する前、タクシーで道案内をするときに
「そこを右に‥‥」といいながら
手は左方向をさしていたのにびっくりしました。
よく聞くと、右左を考えるときは
必ず一度野球場のレフトとライトの方向を思い浮かべ
レフトがこっちだから左はこっち、で、右はライト方向と
順をおかないと考えられないそうです

(うなぎさん)

たしかに、左右を判断するのも
ワンクッション置かなければならないとしたら
おそろしく大変な方向オンチになりそう‥‥。
がんばれ、うなぎさん夫!

目印型は、迷いやすい‥‥。

この東西南北の意識に関しても
男女差はあるのでしょうか?
愛知教育大学の竹内謙彰氏が作った
方向感覚質問紙簡易版というのがあるのですが
そこで方位に関する意識を調べたところ
男性の方が得点が高くなったとのこと。
男性の方が「一般的に」東西南北などの方位を
意識している人が多いみたい。

頭の中で認知地図を作らないとなると
道順を覚えるときに目印型になるのですが
やはりこの目印型は迷いやすい!
研究員Aが目印型だからよおおおくわかります。
方位とか距離とかの絶対的なものじゃない目印。
このあいまいなものに頼っているとやはり迷いやすい。
「コンビニ」を目印にしたつもりが
別の通りにあるコンビニと間違えてしまったり、とか。

そんな「目印型」の人間は諦めるしかないのでしょうか?

いえいえ、そんなことはありません!
テレビの特集(ためしてガッテンの過去の放送)や
書籍(方向オンチの科学)でも
方向オンチは治る!
という心強いメッセージと解決法が取り上げられています。
お悩みの方はいちど目を通されるといいかも。

そもそも、方向オンチに関わる要素は山ほど。
空間能力、認知地図の意識だけでなく。
記憶力・注意べきポイントを押さえているか否か
事前準備‥‥などなどでも違ってくるでしょう。
当然のことながら「女性は誰も彼も方向オンチである」
と言い切れる類のものではありません。

とはいえ、方向オンチも悪いものじゃありません。
人生も目的にまっしぐら、よりは
横道にそれたり迷ったりすることで
思いがけない出会いや喜びが増えますし。
道に迷うくらいの方が人生は楽しいのよね、
と苦しい言い訳をしつつ
今回のレポートをおしまいにしたいと思います。




参考文献
  方向オンチの科学
 新垣紀子 野島久雄著
 講談社ブルーバックス
女の能力、男の能力
 ドリーン・キムラ著 新曜社

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2005-07-15
-FRI


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