主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート33
焦げの科学。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。
いい感じの「焦げ」。
これは料理にとってはなくてはならないものですよね。
肉の焼ける匂い、
パンの焼き色などを生み出す大事なもの。
夕食時にヨソのお宅から漂ってくる
「魚の焼ける匂い」なんてたまらない〜。

でも、焦げが度を超した「焦げ付き」になると
これは厄介です。
炒め物をうっかり焦がすと
我が家の3歳児研究員Bでさえ受け付けてくれません。
文句を言うわけではないんですが
ちょっと口をつけただけでその失敗作の存在を無視。
「これは食品ではない」とでも言いたいのか?
めんどくさいなーもう。
まあ、確かにちょっと「焦げ付き」があると
それだけ料理全体の味を
台無しにしてしまうんですよね。

味の悪さもさることながら、
もっと面倒なのが後始末!
カソウケンでもっとも有能かもしれない
エース、食器洗い機氏にだって処理できません。
無能な研究員Aが重曹くんの力を借りて
地道にお片づけするしかありません。

今回は、焦げつきとは何ぞや? を科学して
攻略してみたいと思います!

焦げつきとは、要するに
「タンパク質と金属の化学反応」!

ちょうど良い具合の「焦げ」は
アミノ酸と糖の反応が生み出すメイラード反応。
餅の科学でもご紹介した反応ですよね。
このメイラード反応によって
良い香りや美味しそうな焦げ色ができるので
料理にとっては歓迎すべきものです。

一方で「焦げ付き」の方は
できることならご遠慮願いたいもの。
動物性タンパク質は加熱すると
金属と反応しやすくなるからなのです。
これは熱凝着といいます。
特に、肉や魚はこの熱凝着現象が起きやすい!
網の上で焼いた魚がくっつく、
なんてものが代表的です。

食材が鍋にくっついて水分がすっかりとんだら
温度が100℃を超えます。
こうなると「苦み」に!
メイラード反応による「美味しい匂い」とは
ほど遠いものになっちゃいます。

焦げつきとは、要するに
「タンパク質と金属の化学反応」。
──ということはですよ、
タンパク質と金属が反応しないようにしてあげれば
話はすむわけです。

そこで考えられる対処法はこれ。
肉や卵などのタンパク質が
「ひとところ」にとどまって金属面と反応しないように
フライパンを動かし続ける
ターナーなどでかき混ぜ続けること。

。。。いや、確かにその通りなのですが
現場レベルではそれは無理な注文ってもの。
だって、一品だけにかかりきり〜
ってわけにはいきませんものね。
それに、台所では不測の事態と隣り合わせ。
急に電話がかかってきたり、子どもが泣いて呼んだり。

焦がさないための工夫を
科学的に表現すると。

というわけで、より現実的な次なる対処法はこちら。
タンパク質と金属が
直接接触しないようにしてあげるのです。
炒め物をするとき
当たり前のように
フライパンに油を敷いているかと思います。
これはまさに
「タンパク質と金属が直接接触しないための皮膜」
を作る作業だったんです!

クッキングシートを敷くのも
この対処法の実践例になります。
ケーキやクッキーも
卵や小麦粉(グルテン)などでタンパク質が多いため
くっつきやすいもの。
クッキングシートを使っているのと使っていないのでは
後始末の手間が格段に違います。

ケーキの型の内側に
「バターを塗って小麦粉をはたいておく」
という準備をする場合がありますよね。
あれも「直接接触しないため」の対処法です。
型の内側を「わざと」汚しておくのです。
そのようにして、ケーキの生地と型の金属が
反応しないようにする! というわけです。
考えてみたら、フライパンに油を敷くという作業も
「フライパンの表面をわざと汚しておく」
ということになりますね。

焦げつかないフッ素樹脂加工のフライパン、
でも空だきは禁物! その理由は‥‥

さてさて、「油を(それほど)敷かなくても良い」
フッ素樹脂加工の鍋やフライパン。
今やどの家庭の台所でも
ひとつはあるのではないでしょうか?
これはどうして「くっつかない」鍋やフライパンに
なるのかというと、これも同じ理由です。
金属とタンパク質が反応しないように
フッ素樹脂でフライパンの表面を覆っているからです。

フッ素樹脂というのはプラスチックの一種です。
耐熱性・耐薬品性
低摩擦性・非粘着性を示す物質です。
。。。って要するに
「熱に強く」「酸アルカリなどでも溶けず」
「表面がよく滑り」「くっつきにくい」
という調理器具にとってはパーフェクト!
とも言える性質を持っているのです。

このくっつきにくい、タンパク質と反応しない物質で
金属の表面でコートしておけば
とーっても便利な鍋になる、というわけです。
鍋に限らず、お玉、フライ返し、トングなどの表面が
フッ素樹脂加工された製品も使い勝手良し、ですよね。

でもみなさんご存じのように
この「くっつかない」機能は永遠ではありません。
使っているうちに、とくに安物は数年もすれば
表面の加工が剥がれちゃいます。

そして、空焚きは厳禁!
フライパンが空の状態で火にかけると
フッ素樹脂の融点以上の温度に
なってしまうこともありえます。
そうすると熱分解が始まり
人体に有害な物質が発生してしまいます。
おーこわ。気をつけましょう〜。
研究員Aも濡れたフライパンを
「フキンで拭くの面倒〜」
と空焚きで乾燥させていたことがありましたが
(なんてずぼらなっ!)以後改めます。はい。

フライパンや鍋の中に何か(バターでも油でも)
入っていれば融点以上にはならないので
ご安心下さいね。
あと、「剥がれたフッ素樹脂は人体に毒なのでは?」
という不安もあるかと思います。
でも、上に書いたとおりフッ素樹脂は
耐薬品性の強い物質です。
ということは、体内でも分解することなく
「そのまま」排出されることを意味します。
これもご安心を。

鉄のフライパンについては前回お話しした通りです。
鉄って使い方次第ではなるほど、安くて半永久的に
「くっつかない」鍋やフライパンになりうるんですよね〜。

焦げ付かせないための方程式は
「タンパク質と金属を接触させない」!

さて、焦げ付かない対処法
「タンパク質と金属が直接接触しないようにする」
についていくつか具体例を挙げてみました。
他に焦げ付かないための対処法はないのでしょうか?
お次は
「くっつきやすいタンパク質を別物にしてしまう」
という方法をご紹介しましょう〜。

「タンパク質を別物に」というと
大層なことのように聞こえますが
たいしたことではありません。
魚を焼くときに
はじめによ〜く網を熱しておくと
くっつきにくくなりますよね。
高温にタンパク質が触れて
「一気に!」別物タンパク質になります。
だから、焦げ付きにくくなるわけです。

タンパク質の熱凝着は50℃あたりから始まります。
だから、冷たい網やフライパンの上に
食材を乗せて加熱していくことは、
「わざわざ熱凝着を起こすための実験」
のようなもの(『「味付けサシスセソ」の科学』より)
とあります。な、なるほど〜。
焦げ付かないようにするためには
網やフライパンを十分熱しておくことが
コツと言えそうです。

他にも「一気にタンパク質を別物に」
してしまう方法があります。
魚を焼くときに、網に酢を塗ったり
逆に魚に酢を塗っておいたりするのがそれに当たります。
これも、酢で魚のタンパク質を変性させるのです。
うん、これは手軽で便利な方法ですね。
それにしても酢の役割は多様です。

焦げ付かせないための方程式って
「タンパク質と金属を接触させない」と
意外とシンプルだったんですね。
シンプル、なはずなんだけど〜。
お料理下手の研究員Aが「焦げ付き」から
解放される日はまだまだ遠いようです。



参考文献
「味つけサシスセソ」の科学 別冊宝島編集部 宝島社新書
料理のわざを科学する P.Barham著 丸善

参考サイト
旭硝子 Fluon フッ素樹脂紹介

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2004-04-23-FRI


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