主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポート15
酸化型漂白剤の科学。


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

小さい子がいるとどうしても服が汚れます。
食べこぼしは言うに及ばず。
つい先日は、研究員Bに着ている服を
ペンで落描きされてしまいました。きーっ!!
所長には「描かれても気づかないくらい
ぼーっとしている方もどうかしている」
と言われる始末。さらに、きーっ!!

洗濯しても落ちない汚れは漂白剤の出番になるわけですが
「手間なし○○」「カラー△△」「ワイド××」などなど
いろいろな種類があって
「何がどう違うの?」と思っていらっしゃる方も
いるかもしれません。
しかも研究員Aは「使う前とたいして変わらない?」と
不信感さえ抱いています。

というわけで、漂白剤を使いこなせない研究員Aが
漂白剤について調べてみました。
今回は漂白の科学についてレポートしまーす。

たいていの服に付いた汚れは
生地の繊維にからんでいるだけなので
洗剤などをを使えば、界面活性剤の働きで
汚れを包み込んで落とすことができます。
(詳しくはカソウケン本部洗剤の科学

ただ、汚れによっては時間の経過などにより
「化学的に結合」してしまうものがあります。
そうなると、洗剤ではその汚れ(シミ)はとれません。

さて、きれいにするにはどうしたら良いのでしょう?
「汚れの物質そのもの」を
分解しちゃえばいいわけです!
例えば、シミとして生地に色を付けている色素を
分解してしまえば、色は消えますよね。

ですから、漂白剤の役目は「汚れを分解する」こと。
汚れを分解せずに包み込んで落とすだけの洗剤とは
まったくメカニズムが異なるのです。

冒頭に「漂白剤にはいろいろな種類がある」
と書きましたが、
漂白剤は大きく分けて
「酸化型」と「還元型」があります。
今回は家庭でポピュラーに使われる
「酸化型」の漂白剤に限ってお話しすることにします。

さてさて、その酸化型の漂白剤の何が
シミを落としてくれるのでしょうか?
実は、生活習慣病や老化の元凶と悪評の高い
「あの物質たち」と同じなんです!

「あの物質たち」とは活性酸素種のこと。
活性酸素って用語は
「あるある」やら「スパスパ」やら「ガッテン」あたりで
何度も耳にしたことがある用語ですよね?

酸素は生体にとってなくてはならない物質。
私たちが酸素を取り入れてエネルギーに変えるとき
必ずできてしまう物質が活性酸素種です。

活性酸素種はエネルギー状態の高い不安定な物質。
「ワタシの本来あるべき姿はこんなじゃないの〜」
とじたばたしている物質をイメージしてください。
彼ら(活性酸素種)は
「安定できる落ち着いた姿」に
なりたがっているのです。

不安定になっている彼らは攻撃的です。
まわりを巻き込んで
自らを落ち着いた姿に変えようとします。
活性酸素種はこのように
激しく化学反応しやすい物質なのです。

体内の活性酸素種はこの攻撃性で
進入してきた細菌や病原菌をやっつけてくれる
ありがたい存在でもあります。
でも!活性酸素種が余計に残っていたりすると
今度は攻撃する必要のない細胞までも
痛めつけてしまいます。
だから、老化やガンなどの原因になってしまうのです。

漂白剤の話に戻りましょう。
酸化型漂白剤はさらに
「塩素系」と「酸素系」分類できます。
種類と主成 形状 液性 特徴
塩素系 次亜塩素酸ナトリウム 液体 アルカリ性 漂白力大
色柄もの×
酸素系 過炭酸ナトリウム 粉末 弱アルカリ性 色柄もの○
毛・絹×
酸素系 過酸化水素 液体 弱酸性 色柄もの○
毛・絹○

成分も特徴もそれぞれ違いますが
漂白するのはどれも「活性酸素種」なんです。
それでは、それぞれをもう少し詳しく見ていきます!

■塩素系:次亜塩素酸ナトリウム
この中でいちばん漂白するパワーが大きい物質です。
次亜塩素酸ナトリウムは水の中で
HClO(次亜塩素酸)」という物質ができます。
この物質が活性酸素種の仲間なのです。

この次亜塩素酸の活性酸素としての力は
とっても大きいのです。
とって欲しいシミだけでなく
何でもかんでも脱色してしまいます。
だから色柄ものには使うことができません。

でも次亜塩素酸はそのパワーのおかげで
除菌・防臭の効果も大!
シミの元になる物質を分解するように
細菌も臭いの元も分解してしまうからです。

ただし!パワーが大きいだけあって
いろいろと気を遣わなくては
いけないことも多いものです。

この塩素系漂白剤を使っていると
つんとする刺激臭がしますよね。
わずかながら塩素を発生しています。
塩素の臭いって生命の危険を感じますが
実際にもその通り、です。
死に至ることもある、人体にはきわめて危険な物質。
換気にはくれぐれもお気をつけください〜。

そして、これが一番気をつけなくちゃ
いけないことですが
「酸性の洗剤と混ぜてはいけない!」

成分である次亜塩素酸ナトリウムですが
これは「酸」と出会うとたちまち塩素を発生します。
こんなキケンな化学実験、おうちでは厳禁!
(過去に死亡事故もあり)

トイレ用洗剤などに代表される
酸性洗剤はもちろんですが
クエン酸やお酢も「立派な酸」になり得ます。
クエン酸やお酢は
最近流行の「ナチュラルクリーニング」などと言って
お掃除に使う方が増えているかと思われます。

重曹・クエン酸・お酢を
「化学物質を使わない安心な洗剤」
とした表現もしょっちゅう見かけますが、
これらも立派な「化学物質」です(力説!)。
「口に入れても大丈夫だから」と甘く見ていると
キケンですよおぉぉ〜。

と、脅かすようなことばかり言ってしまいましたが
この「次亜塩素酸ナトリウム」は
浄水やプールの殺菌にも使われているものです。
正しく使えば有効な物質です。
なるべくなら使わないで済ませたいところですが、ね。

■酸素系その1:過炭酸ナトリウム
塩素系漂白剤はキケンだし色柄ものにも使えないし、と
もう少し使い勝手良いものが欲しいところです。
それが、粉末の酸素系漂白剤の成分である
過炭酸ナトリウムです。

過炭酸ナトリウムは水の中で
「炭酸ナトリウム」と「過酸化水素」へと変化します。
この過酸化水素H202が「活性酸素種」になって
漂白してくれるわけです。

同じ活性酸素種ではありますが
過酸化水素は次亜塩素酸に比べて
作用の穏やかな活性酸素です。
ですから、色や柄のある衣類でも大丈夫
ということになります。
「カラー△△」とか「ワイド××」なんて
商品名で売られているのがこの漂白剤です。

「40度以上のお湯に溶かしてください」
と説明が書いてありますが、
温度を上げると反応する速度を
上げることができるのです。
(この温度と反応速度の関係は
 化学のキホン中のキホン〜)

過酸化水素の水溶液はオキシドールと呼ばれていて
傷の殺菌にも使われますよね。
ちなみに、体内で白血球が細菌などをやっつけるのに
使っているのもこの過酸化水素。
オキシドールでの殺菌は
体内と同じことをしているんですねー。

オキシドールで髪の毛を茶色くすることもできますよね。
オキシドールが髪の毛の
メラニン色素を脱色しているのですから、
衣類の漂白と同じことをしていることになります。

■酸素系その2:過酸化水素
上の粉末の酸素系漂白剤の話を聞いていて、
「じゃ、オキシドールそのものが漂白剤にならないの?」
と疑問に思われる方もいらっしゃいますよね。

立派に漂白剤になるんです。
過酸化水素の水溶液として売られています。
「手間なし○○」という商品名のものがそれ。
粉末のものは水に溶かさないと
漂白効果が得られないのですが
こちらは最初から活性酸素種である
「過酸化水素」の形になっているので
シミに直接つけることができます。
だから、「手間なし」なんですねー。

ただ、粉末の過炭酸ナトリウムよりは
若干漂白効果は落ちます。
でも、過炭酸ナトリウムより便利な点があるんです。
それは、毛や絹などの素材でも使うことができること。

粉末の過炭酸ナトリウムは水に溶かすと弱アルカリ性。
タンパク質はアルカリにやられてしまいます。
だから、毛や絹には使うことができません。

でも、過酸化水素の水溶液は弱酸性。
タンパク質を痛めることがないので
羊毛や絹の素材でも使うことができるのです。

ちなみに、過酸化水素は分解すると
「水」と「酸素」になります。
有機物と反応してトリハロメタンなどの
有害物を作ってしまう可能性の高い
塩素系漂白剤に比べると
酸素系漂白剤は環境に対する負荷は低いといえます。
(もちろん、これは程度問題で
 酸素系漂白剤だって大量に使えばヨロシクない)

塩素系よりは扱いやすい酸素系漂白剤も
当然ながら100%安全ではありません。
弱いとはいえ、「活性酸素種」ですから。
飲んだら苦しそうですよねー(想像するなって)。

ガン・お肌のシワ・老化などの元凶といわれ
最近はすっかり悪玉感の強い活性酸素種です。
でも、体の中で役に立っているだけでなく
うまく使えば生活にも役立つものですから
「キミもよく頑張ってるね」と
見直してあげましょう。




参考文献
化学精義(下) 竹林保次著 培風館
無機化学 J.D.LEE著 東京化学同人
理科らしくない理科
-生活の理科サロン-
小出力著 裳華房
わかりやすい
浄水・整水・活水の
基礎知識
久保田昌治・野原一子著 オーム社出版局
岩波理化学辞典 第5版
CD-ROM版
長倉三郎編纂 岩波書店
暮しのコツと科学 南和子著 筑摩書房

  


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2003-08-15-FRI


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