主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポートその13
暗記はフォトコピー!?


ほぼにちわ、カソウケンの研究員Aです。

唐突ですが、皆さんの「憧れの職業」ってありますか?
研究員Aにとっての憧れは、なんと言っても「指揮者」。
音楽的センス・人心掌握術・カリスマ性
頭の良さ・良い耳・勉強熱心さ
などなど思い付くままに挙げても
あらゆるものを兼ね備えていないと
できない職業だと思うんです。

そして、どう頑張っても、ひっくり返っても
自分がなれないものだからこそ
その生体が不可思議でもあります。

そんな研究員Aが最近読んだ本が
指揮者の岩城宏之さんの著書「指揮のおけいこ」。
研究員Aのような人のために
「指揮者とは何ぞや?」とレッスンしてくれる本です。
「ファッション」「指揮棒」から
「大物指揮者に見せるため」などなど
興味深い話がめじろ押し〜。

中でも気になったのが
「指揮者はどのようにして暗譜するか?」
という話題。
オーケストラの譜面は何十段もある膨大なものです。
指揮者はあれを覚えなきゃいけない!

この話を読んで
最近発表されたある研究を思い出しました。
それは、将棋の羽生善治名人の「強さ」の研究です。
どうやら、岩城宏之マエストロの暗譜法と
羽生名人の強さの秘訣は関係しそうなのです。

というわけで、今回のカソウケンのテーマは「暗記」。
最近、妊娠育児ネタが続いていたので
趣向を変えたものをお送りしまーす。

さて、その羽生名人の強さの研究とは
つい先月の6月に日本認知科学会で
発表されたばかりのもの。
公立はこだて未来大の松原仁教授と
電気通信大の伊藤毅志助手の研究です。
詳しくはこちら

どんな実験をしたか、簡単にご説明しますと。。。
将棋のある局面を何秒で記憶し
どれだけ正確に再現できるか、を調べるのです。


アマ8級程度の初心者は3分以上
アマ三段程度の中級者でも40秒以上かかりました。
でも! 羽生さんは3秒ほどで記憶し
さらに、ほぼ完全に再現できたのです。

アマ三段の40秒もスゴいと思いますが、羽生名人は3秒!
いち、に、さんっの三秒ですよおお〜。
まったく想像もつかない世界です。

アイカメラで記憶するときの視線の動きを追って
調べた結果などから、研究者である伊藤氏は
「初心者は駒を一個一個、中級者は固まりで覚えているが
 羽生さんは盤面全体を絵のように覚えている」

とみているようです。

ふむふむ、「全体を絵のように覚えている」。
これがキーワードになりそうです。
というわけで、指揮者の暗譜のおハナシに戻ります。

岩城宏之先生によると。。。
指揮者は本来暗譜はそれほど
必要ではないらしいのです。
ただ、譜面を見ないで振っている方が
聴衆に「カッコイイ」と人気なので
(例えばカラヤンもほとんど暗譜だったとか)
頑張って暗記するとか。

岩城さんが太っ腹にも、その暗譜のための
「企業秘密」をバラしてくれたのですが、
それもやはり「目で記憶する」というもの。

これは、岩城さんがピアニストのルービンシュタインから
伝授されたワザだそうです。
ルービンシュタインは
「目の中にフォトコピーすれば
 もっとも確実に覚えられる」

とアドバイス。

それ以来、岩城さんは
「複雑な譜面を模様として、あるいは景色として、
 頭の中でのビデオの静止画像のようにして」
記憶しているのだそう。
本番のときは頭の中でこの架空の画面を
次々とめくりながら指揮するとのこと。

この「フォトコピー」とは
上述の羽生名人と似た記憶方法なのかもしれません。

そいういえば、研究員Aにもこんな経験があります。
世界史のテストなどのとき、なかなか思い出せなくて
むきーっと顔を真っ赤にしながら思い出そうとすると
前日に読んでいた教科書のページが
画像として思い浮かびます。

で、「あ、ここの脚注に書いてあった!」とミゴトに
その「画像」をカギに思い出すことができたわけです。

上の二つに比べておっそろしくスケールの小さい話で
申し訳ありません。。。

でも、ひょっとしたらこの「フォトコピー記憶術」、
意識して実践していらっしゃる方
いるのではないでしょうか?

当カソウケンの所長は
研究員Aに輪をかけて記憶力の悪い人間です。
妻を「外部ハードディスク」として利用するくらい。
「メガネここに置いたから覚えておいてね」って。

でも、所長に記憶の仕方を聞いてみたら
「頭の中で紙に字を書いて
 その書いたものを思い浮かべながら思い出す」
というやり方をしていることもあるとか。

まあ、所長の場合はお粗末な記憶力をカバーするために
必然的に編み出されたワザと言えるかも。

「譜面をフォトコピー」で連想されるのが
作曲家のモーツァルトです。

映画「アマデウス」でも
「仕上がった楽譜はどこにある?見せろ」
と責められたモーツァルトが

「頭の中さ」
「もう完成している」
「あとは書くだけ」


と答えていましたよねー。
うん、あれは実に格好良かった!

モーツァルトの作曲の作業は
頭の中で完成した曲を書き下ろすだけだったらしい
とはよく聞く話です。
ベートーベン直筆のスコアは書き直しが多いのに対し
モーツァルトの直筆のスコアはキレイだった、と。

モーツァルトの場合は
単なる「譜面をフォトコピー」的なものではなく
「ビデオ映像を圧縮処理した状態」で
曲が存在していたのかもしれません。

また複雑な風景を一瞬で記憶し、正確に再現する
「カメラアイ」と呼ばれる人たちがいます。
カメラアイ的な能力を持っている人は
だいたい言語を話したり
書いたりできない場合が多いようです。

解剖学者であり、脳の著書で有名な養老孟司先生は
「言語がないからそういう能力が伸びる。
または、カメラアイ的能力は言語性の
発達によって消されているかも」
と仰っています(詳しくはこちら)。

モーツァルトも同じくそのような
「特殊能力」の持ち主だったのかもしれません。
ほんと、脳って器官は
奥が深くて可能性に満ちています。

研究員Aもせっかくですので暗記の際は
「フォトコピー」を意識してみます。
お買い物メモをフォトコピー。。。って
何の意味があるのか不明ですが。

 




参考サイト
asahi.com:将棋:トピックス
オリンパステクノゾーン vol.43

参考文献
指揮のおけいこ 岩城宏之著 文芸春秋社


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2003-07-18-FRI


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