主婦と科学。
家庭科学総合研究所(カソウケン)ほぼ日出張所

研究レポートその4
男の脳・女の脳(1)
「男の子は成長が遅い?」


ほぼにちは、カソウケンの研究員Aです。

カソウケンには、2歳4ヶ月になる研究員Bと
6ヶ月の研究員Cがいます。
二人とも男の子です。

小さいお子さんのいる方は
多かれ少なかれ気になってしまうのが「発達」
研究員Aも「気にしない」と自分に言い聞かせつつも
どうしても気になってしまいます。

研究員Bは、歩き始めたのが1歳6ヶ月過ぎ。
平均が1歳前後ですから、かなり遅めです。
言葉もまだ単語程度で、やはり遅いようです。
研究員Bよりも年下の女の子が流暢に
お話ししているのを見るとさすがにびっくりします。

研究員B本人に言わせると
「僕だって流暢にお話ししているじゃないか」
と抗議するところでしょう。
宇宙語にしか聞こえないところが
母としても辛いところです。

そんな研究員Bに対して
優しい皆さんがかけて下さるコトバが
「男の子は成長が遅いから」
昔から語り継がれるフレーズですが
実はこの言葉にはれっきとした科学的根拠があるのです。

世のオヤゴさんたちの悩みの多くを占める「発達」
今回はその悩みをちょっと軽くしてくれるかもしれない
科学をご紹介します。

性別の違いは、
生殖器の違いなどに現れる外見の違いだけではなく
脳にもあります。
でも、妊娠2か月までは胎児の体も脳も
男女差はないのです。
胎児の体は、特別な指示がない限り
女性の体になるようにプログラムされています。
つまり、人の体も脳も「初期設定は女性」なのです。

では、いったいどこで男女の差が生まれるのでしょうか。
Y染色体というものが「男になれ」と指令を出します。
Y染色体を持った男の子は、
テストステロンという男性ホルモンのシャワーを
妊娠期間中に浴びるのです。
この男性ホルモンシャワーの働きで
女の生殖器の代わりに
男の生殖器が作られるようになります。

そして、胎児の脳が男性型に傾き始めるのです。
ここで面白いのが、「男脳」「女脳」
真っ二つに別れているのではないこと。
胎児期に男性ホルモンシャワーを多く浴びるほど
男性的な脳になる、というのです。

だから、脳の男女差は「男です!」「女です!」と
シロクロはっきりつけられるものではなく、
一人の人間の中に「男っぽさ」「女っぽさ」が
同居しているのが普通なのです。
人によってその男女の割合は
「男性ホルモンのシャワー量」によって
違ってくるわけなのです。

この男性ホルモンですが
これは左脳の発達を抑える影響があります。
左脳というのは言葉や計算の能力を担当しています。
ですから、男の子の場合、女の子よりも左脳の
発達が少し遅れます。
そのせいで、女の子は一般的に
「言葉が早く」「知恵が早い」
と言われることになるのです。

ただ、男の子の場合
黙ってただ遅れているだけではありません。
初めに左脳の発達がおさえられるせいで
右脳が発達するチャンスが生まれます。
実際、男性は右脳の方が左脳よりも大きい
アンバランスな形をしていることが多いとか。

右脳は、空間認識力とか、図形処理能力を
担当している脳です。
一般的に、男性の方が
「地図を読める」「幾何学が得意」「将棋やチェスが強い」
傾向があるのはこの理由によるものらしいのです。

男女の脳にはもう一つ大きな違いがあります。
「脳梁」という右脳と左脳を対話させる
神経の束があります。
その神経の数は女性の方が一般的に多いのです。

脳梁は、左右の脳の連絡網の役割を果たしています。
女性の方が脳梁が太いということは
左右の脳が連絡を良く取り合っている脳
だということになります。

男性はこの脳梁が細いので、脳の一部に損傷がおきると
一挙に言語能力が失われたりしやすくなってしまいます。
女性はこの脳梁が太いので
脳の他の部分でカバーすることになるため
そうならずにすむことが多いのです。

うーむ、左右の脳の連絡がうまくできない男性脳って大変。
と決めつけたくなりますが、そうでもありません。

女性の脳は脳梁が太いので
能力が脳の中で散らばってバランスのとれた脳になります。
脳梁の細い男性の脳は、逆に能力が脳の中で偏ります。
したがって、特殊能力が高くなる可能性が大なのです。
男女の脳、どっちが優れている、というわけではなく
それぞれに特色があるのですから。

男性が数学などで優れた能力を発揮することが多いのは
この「偏り」によるらしい!

でも、もちろんこれは平均的な話なので
女性でも男性型の脳の人もいるし、逆もまたしかりです。

また、上でご説明したように
「左脳の発達が抑えられている間に右脳が発達する」
ことは、次のようなことを連想させます。

アインシュタインは5歳頃までまともに
言葉が話せなかったことで有名です。
アインシュタインの死後
彼の脳を調べたところ
言語を司る一部に損傷があったことが見つかりました。
その代わりに、下頭頂葉という部分が
張り出していたのです。

言語機能の損傷があったからこそ
科学の世界を180度転換させる発見をなし得る能力が
開花したのかもしれません。

アインシュタインの例に限らず
ある種の脳機能が欠損していた場合、
他の脳機能が普通より発達することは
よく見られる現象だということです。

発明王エジソンはAD/HDだったと言われています。
(AD/HDとは、日本語で注意欠陥多動性障害です。
AD/HDの原因はまだ不明ですが
注意力・衝動性・多動性を
自分でコントロールできない
脳神経学的な疾患と言われています。
えじそんくらぶより)
エジソンは、AD/HDの裏返しの特徴でもある
「好奇心が大」
「興味あることに対する高い集中力」
「実行力が高い」

のおかげで数々の発明をなし得たのでしょう。

脳ってスゴい器官です。
「遅れ」「損傷」があると
別の部分を発達させてしまうのです。

「うちの子は言葉が遅い」だけでなく、
「うちの子は○○ができない」というときは
実は「△△が優れている」ということのサインではないか
と思うのです。

でも、その△△がわからなかったり見えなかったりすると
親は不安になりがちです。
そんなときは「脳ってすごいんだから」
と思い出すようにしたいなあと研究員Aは思う次第です。
アインシュタインやエジソンのような天才ではないにせよ、
何かが「できる」ことの現れかもしれないのですから。



参考文献
やわらかな脳のつくり方 吉成真由美 新潮社
天才は冬に生まれる 中田力 光文社新書
男の子って、どうしてこうなの? スティーブ・ビダルフ 草思社

2003-05-09-FRI


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