ぼちぼち、はじまりますよ、北京オリンピック! もちろん「ほぼ日」では、いつもの企画をやるのですが、 まずは、この方にお会いして、話をうかがっておきたい。 そう、NHKの刈屋富士雄アナウンサーです! 聞き手はもちろん、永田です。断固、永田です。 私、永田は、はっきりいって、ふつうの人よりは オリンピックというイベントを楽しみにしている という自負があったんですが‥‥驚きですよ。 刈屋さんのお話をうかがったら、 その期待がさらに何倍にもなりました。 北京オリンピックへ、これ以上ないイントロとして。
第1回 開会式に注目 2008-08-01
第2回 進化するテレビ放送 2008-08-03
第3回 日本の金メダルの数は‥‥ 2008-08-04
第4回 体操ニッポン、栄光の行方 2008-08-05
第5回 シンクロとバレーボール 2008-08-06
第6回 オリンピックの楽しみ方 2008-08-07


永田 お久しぶりです!
刈屋 こんにちは。
永田 オリンピック目前、ということで、
ぜひ、刈屋さんにお話をおうかがいしたくて
おじゃましました。
よろしくお願いします。
刈屋 よろしくお願いします。
あの、今回、じつは、
20年振りのことになるんですが、
私は夏のオリンピックの開催地に行かずに
東京から情報をお伝えするんですよ。
永田 そうらしいですね。
うかがってびっくりしました。
オリンピックの番組を担当されるとか。
刈屋 ええ。深夜のハイライト番組を
担当することになっているんです。
永田 それはそれで、楽しみでもありますが、
正直、刈屋さんの実況が聞けないというのは
さびしくもあり‥‥。
刈屋 ははははは。ま、しょうがないですね。
少し離れたところから観られるというのは
自分としてはちょっと楽しみでもあるんです。
永田 しかし、ゲン担ぎの意味ではどうですか?
「ゴールドメダルアナウンサー」が
北京に行かないと、なんらかの影響が‥‥。
刈屋 ははははは。いやー、大丈夫でしょ。
‥‥‥‥大丈夫かな?
永田 ははははは。
刈屋 (笑)
永田 今日、おうかがいしたのは、ずばり、
北京オリンピックの見どころを
教えていただこうと思って。
刈屋 はい、はい。
永田 はじまる前ですから、
断言しづらいこともあるかと思いますが、
ぜひ、刈屋さんの知識と経験から
見どころを教えていただければと‥‥。
刈屋 まず、今回の北京オリンピックの
いちばんの見どころは、開会式です。
永田 うわ、もう、はじまりますか。
え? 開会式? 競技ではなく?
刈屋 はい。今回のオリンピックでは
開会式が最大のポイントに
なるんじゃないかと思います。
なぜかというとですね‥‥。
永田 はい、はい。
刈屋 なぜかといいますと、
ご存じのように中国はチベットに関する問題で
世界的な批判を受けました。
また、四川省の大地震では、
10万人以上の人が被災しました。
こういった困難な状況のなかで、
はたして中国はオリンピックをどう表現するのか。
開会式をどういうふうにやるのか。
これはすごく興味深いことだと思います。
永田 あああ、なるほど。
刈屋 かつて、たとえば東京オリンピックの時代、
オリンピックというのは国威発揚の場でした。
「私たちの国はこんなに力がある」というのを
前面に押し出す開会式がふつうだったんです。
ところがこの20年くらいのあいだは、
大会ごとにいろんなテーマを持つようになった。
その象徴的な例が、1992年のバルセロナ大会です。
バルセロナ大会は、ソビエトをはじめとする
東側諸国が崩壊しつつあるなかで開催されました。
それ以前の冷戦時代には、
平和の祭典といわれるオリンピックにも、
ボイコットなどの政治問題がありましたが、
バルセロナのときには東西の関係そのものが
根本的に崩れようとしていた。
そういう状況で開催されたのが
バルセロナの開会式だったわけです。
当時、ぼくはそれをスタンドで観ていたんですが、
たいへん印象的だったのは、大きな五輪旗が、
選手、会場全体を包み込んだことでした。
つまり、東の人、西の人、あるいは宗教、政治、
そういった全部のものを、五輪旗が包んだんです。
あれが、まさにバルセロナの主張だと思うんです。
開催当時は、スペイン自体にも、
バスク地方に代表される、民族的な紛争があり、
とても安定しているとはいえない状況でした。
しかし、そういう中でも、
オリンピックを通して、世界はひとつなんだ、
宗教も民族も政治も乗り越えてひとつなんだ、
そういうことを、あの開会式は
世界にアピールしたと思うんです。
永田 はーーー。
刈屋 じゃあ、北京オリンピックはどうするのか?
中国は世界でいちばんだ、
というふうに強さをアピールするのか。
それとも災害などで苦しんでいるけれども
立ち直ろうとしている姿を見せるのか。
外に向けるのではなく、
国民を勇気づけるような演出にするのか。
そのあたりがとても気になるところです。
また、注目すべきポイントは中国側に限りません。
最近、公害問題の影響から、オーストラリアは
陸上の選手団が開会式に出ないと
言い出していると伝えられていますし、
ヨーロッパ諸国の中にも、人権問題から、
開会式に来ない国があると、報道されています。
そういった国が、ほんとに来ないのか?
どういった単位でボイコットが起こるのか?
永田 選手個人個人の判断もあるかもしれませんね。
たとえば、入場するときに
なにかパフォーマンスをするかもしれない。
刈屋 はい、そういった可能性も大いにあります。
そういうときに、注目したいのは、
国際映像をどうつくるのか、ということです。
永田 あー、そうか、そうか、
各国へ放送する、国際映像というのは
たぶん中国が中心となってつくるわけですね。
刈屋 そうなんです。
たとえば、各国が入場してくるなかで、
ある国がボイコットした。
そのとき、国際映像はどこを映すのか。
まったくそれに触れない映像を
つくることだってありえます。
永田 基本的には、日本の放送局は、
国際映像を放送するんですよね。
独自に編集したVTRがあるわけではなく。
刈屋 そうなんです。
たぶん、中国の中央電視台というところが
中心となって北京オリンピック放送機構が
つくると思うんですけど
そこがどうつくるか、ですよね。
だから開会式そのものを
どう演出するのかという点がひとつ。
それを国際映像において
どう配信するのかという点がひとつ。
この2点において、開会式というのは
極めて注目すべきだと思います。
要するに、中国という国が、
オリンピックをどうとらえているのか、
ということでしょうね。
永田 よく言われることですが、
オリンピックというのはスポーツの祭典だから、
政治とは切り離すべきだという考えもあります。
刈屋 そうですね。個々の競技においては
そう考えるほうが自然です。
でも、オリンピックの開会式に関しては、
なんらかの主張というものが確実に出てきます。
いつの時代であろうとも、
それを利用しようとする人もいれば、
なんらかのアクションを起こす人もいる。
スポーツは政治とは関係なく
純粋な競技、勝負であるべきです。
でもオリンピックという
国際的なイベントになったときには、
各国がなんらかの手段で利用しようとするのは、
もうまちがいのないことなんですよ。
永田 事実として、オリンピックの開会式には
そういったものが必ず反映されると。
刈屋 そう思います。
そして、それをどう伝えるのか、というのは
放送、報道に関わる全員が
考えなければいけないことだと思います。
我々の大先輩に
西田善夫(にしだよしお)さんという
アナウンサーの方がいらっしゃるんですが、
この方が、モントリオールオリンピックの、
閉会式の中継の最後に、
「せめて4年後はオリンピックが
 開けるような世界であってほしい」
とおっしゃったんです。
あのときのオリンピックというのは、
南アフリカのアパルトヘイトに抗議して、
アフリカ諸国がボイコットしました。
また、当時、カナダは
中国と国交を結んだため、
台湾と断交してすでにアメリカまで来ていた
台湾の選手を入国させなかったんです。
モントリオールオリンピックはそんなふうに
はっきりと政治的な影響があった大会で、
しかも、4年後の開催地はモスクワで、
はじめて東側でオリンピックが開催される
というような状況だった。
だからこそ、西田さんは、
世界の不安定な情勢を予見して、
そんなふうにおっしゃったんだと思うんです。
永田 はーーーー。
刈屋 そして、その4年後、モスクワ五輪を
アメリカがボイコットするのかどうか
ということで世界が揺れていたとき、
その半年前に行われた
冬期レークプラシッド五輪の実況の中で
西田さんはこうもおっしゃいました。
「我々、日本人は、うるう年がくれば、
 4年ごとにオリンピックが
 開かれるもんだと思ってる。
 でも、そうじゃないんだ。
 国際社会がちょっとでもバランスを失ったら
 オリンピックっていうのは、
 あっという間に開けなくなってしまう。
 だから、当然開かれるもんだと
 思ってること自体が認識不足なんだ」と。
つまり、オリンピックというのは、
世界の人たちがオリンピックを開こうという
意思があってはじめて開かれるものである。
だから、そういう世界じゃないと
オリンピックは開けないし、
逆にオリンピックを開くためには、
そういう世界にしなきゃいけない。
それがオリンピックの理念じゃないか、
ということを西田さんは
実況でおっしゃったんです。
永田 すごい‥‥。
刈屋 当時、ぼくは、まだ大学生だったので
その実況を断片的にしか覚えてなかったんです。
NHKに入ったあとに、
そのVTRを観る機会があって、
実況をじっくり聞いたら
そういうことをおっしゃっていたんです。
永田 オリンピックというのは
4年ごとに自然に開かれるもんじゃない。
開こうという世界の意思がなきゃ開けないし、
それを開くための世界でなければだめだという。
刈屋 はい。そして、21世紀に入り、
東西の冷戦は終わりました。
でも、問題はちっともなくなっていない。
民族紛争、環境問題、天災‥‥。
今回の北京では、偶然ではありますが、
そういった問題が重なって起こった。
そんななかでどういうふうに
オリンピックの幕が開くのか‥‥。
永田 はい。俄然、興味がわいてきました。
刈屋 (笑)
(続きます!)


2008-08-01-FRI

2004年 アテネオリンピック 『昨夜、オレは観た!』
2005年 甲子園 『おらが夏の甲子園。』
2006年 トリノオリンピック 『観たぞ、トリノオリンピック!』
2007年 大阪世界陸上 『観たぞ、大阪世界陸上!』
(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN