「ちいさなブイヨンができるまで」  海洋堂原型師 松村しのぶ 飼い主 糸井重里 対談

05 俄然、おもしろくなる。

糸井 ぼくら素人からみると、
「作り飛ばす」という言い方が
できること自体、不思議なんですけど、
それにしても、ほんとに
作り飛ばすように
「どんどん作っていく」のが好きなんですね。
この動物が好きとか、
そういうのはあまりないですか?
松村 多少の好みはあるんですけど。
糸井 たとえば。
松村 犬も顔が長いほうが好きだとか、
そういう好みはあるにはあります。
あと、歯がガーッと並んでて、
ベロが出てるような口が好きだとか。
糸井 はいはいはいはい(笑)。
松村 好みとしてはそういうこともあるんですけど、
作るとしたら、どれもみんな‥‥
ペットでも野生の動物でも、
希少種であろうが、外来生物だろうが
なんでも。
糸井 生きてないものは興味がない?
松村 やっぱり、生きて動いてるものがいいです。
生きものだけでもこれだけ種類があるわけだから、
俺的にはもう、それで十分というか。
もしこの先、自分の作るものが、
まったく受け入れられなくなったとしたら、
ほかのものを作るしかないですけど、
これだけ作るものがあれば、もう十分‥‥
糸井 幸せ(笑)。
松村 そう。だから、なにが好きというよりも、
こういうのがいっぱいあるほうが楽しいですね。
糸井 「造物主」みたいなことですかね。「神様」というか。
松村 どうだろう‥‥まあ、そうなのかな。
たとえば、かえるでも、
よく似たものがいくつも並んでいたり。
糸井 うん、うん(笑)。
松村 1個ずつ集めてもつまんないけど、
こんなふうになってくると、
俄然、おもしろくなってくるんです。
糸井 これ、実はひとつひとつ、
全部違いますよね?
松村 ええ、ほんとは違うんですけど、
数が集まったときのおもしろさは‥‥
糸井 その心と重なり合うのは、
ぼくらには無理かもしれないなぁ(笑)。
松村 まぁ、一個一個はそれほどアレなんで、
集まったときにおもしろいんですよ。
糸井 一個一個もすごいけど(笑)。
松村 これなんかは、また別で、
大きいんですけどね。
原寸大なんです。

始祖鳥。(クリックで拡大します)

カワウソ。(クリックで拡大します)
糸井 これは、始祖鳥?
松村 そう、これは作品展用に作ったものなんです。
だから大きい。カワウソも原寸大です。
糸井 じゃあ、写真の背景はほんとの地面。
松村 そうです。
実を言うと、フィギュアって、
大きさはあまり関係ないんですよね。
この蜂は、また別のグループ展に
出品した作品なんですが。

オオスズメバチ&キイロスズメバチ。(クリックで拡大します)
糸井 これは戦って死んでるんですよね。
松村 そうです、そうです。
糸井 つまり、時間の「ある瞬間」が、
ここにあるんですよね。
松村 「雑木林の収穫祭」というテーマの
展覧会だったんです。
スズメバチの「襲撃」は次世代の女王を育てる
秋にしかみられないものです。
冬になると、女王蜂以外はみんな、
巣がなくなって死んでしまう。
これはハチにとって最後の「大爆発」です。
その最期を迎える直前の一瞬を捉えたいと。
糸井 取れた羽とかが、リアルですよね。
でも、これも単なるリアリズムじゃない。
「本当のものじゃない」というデフォルメが、
必ず、どこかにありますよね。
松村 もちろんそうです。
糸井 そこは「自分」なんですよね。
自分の解釈が入ってる。
松村 そうです、そうです。
糸井 どっかしらに自分がいて、
作ってる人の個性が、
そこに込められてるんですよね。
松村 そうですね。
ふつうの動物フィギュアだったら、
自分の思いでできるんで。
ただ、今回のブイヨンみたいに
1匹しかいない場合はね(笑)。
それはちょっと、
やばいなっていう感じでしたけど。
糸井 ああ、そうですね、落としどころがね。
だから、僕の考えを吸い上げて、
いったん理解して答えを返すっていう作業を、
会ってないあいだにも、
ものすごくやり取りをしてましたね。
松村 ええ。
糸井 それは、ふだん自分の解釈で
やってる人にとっては
なかなかしんどいことですよね。
松村 正解が、自分ではわからない
というところがね。
どうやったらいいんだろうって迷うので。
糸井 ぼくが言うことをまるまる聞いちゃうと、
「そういうことはあり得ません」
ということにもなるわけだし。
松村 「鼻はそこまで丸くないんじゃないか」
っていうふうにですね(笑)。
「丸いイメージはないんじゃないかな」って
こっちとしては思うわけです、たとえばね。
糸井 うん、客観的に見ると「ない」のに、
ぼくが見えてるんだったら、
「それはつまり、こういうふうに見えてるのか?」
という問いかけをいったん形にして、
それをもう一回ぼくのほうに投げかけて、
「あ、それが近いです」って返事が返ってきたら、
「ああ、そうですか」ということになる。

たとえば、今回、「口」なんかでも、
実際には、もっと幅があるはずですよね。
ほんとは犬の口って、
目の下ぐらいまであるものでしょう?
松村 そうですね。
糸井 でも、そのままやっちゃうと
ぼくの問いかけに対する
答えにはならないんですよね。
松村 はい。
糸井 だけど、実際の犬を見てても、
このフィギュアの口くらいに見えるときも、
しょっちゅうあるんですよ。

で、松村さんも、スケッチの段階では、
最後まできっちり描いてるけど、
最終的に、フィギュアでは
口のラインを短く止めている。
犬を知ってる人には、
「あれ、ほんとはもうちょっと?」
って、思う部分かもしれないけど、
それが、作家の答えなんですよね。
(つづきます)

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2011-06-13-MON