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与市兵衛も勘平も亡くなりましたが、おかるは生きています。舞台は祇園のお茶屋さん。おかるはすでに身を売っていて、遊女として働いていました。そこに常連の大星由良助がいて、酒ばかり飲んで遊んでいました。

由良助が仇討ちをする気もなく単なる遊び人となって遊んでいるのか、それとも、敵の目を欺くために遊ぶふりをしているのかはわかりません。それを両陣営ともが知りたがっているという状態です。ですから両陣営から人が探りに来たり諌めに来たりします。早く討ち入りをしようなどと、血気盛んな若い侍もやってきます。その侍にくっついて来るのが、いちばん下っ端の足軽の侍。名前は平右衛門。それが、おかるのお兄さんなんです。平右衛門は低い身分ながら、討ち入りをともにさせてほしいと由良之助に願い出ます。

また、そこには敵方に寝返ったスパイが潜んでいます。斧九太夫(おのくだゆう)です。同じく、由良之助の真意を探ろうとしています。とても緊迫した場面なんですが、それがお茶屋さんの艶やかな雰囲気で進行していきます。

そこに、殿の未亡人である顔世御前から由良之助に宛てた手紙が届きます。由良助はそれを読みはじめる。昔の手紙は巻物なので、読み進むとはらはらと床に垂れます。床下で、スパイである斧九太夫がそれを読もうとします。

上の階では『ちょっと私、酔っちゃったわ、風に当たりたいわ』なんて涼んでるおかるがいます。下を見て『おもしろそうな手紙、読んでるわね』と、のぞき込む。つまり、下からも上からも、その手紙は読まれているんです。途中でおかるのかんざしが抜けて音をたてます。その音に気がついた由良助が手紙をしまいこもうとすると、手紙の先がちぎられていました。そこで由良之助は、下にスパイがいることにも気づきます。

由良之助は、まずはおかるの口を封じなきゃいけない。上にいるおかるを下へ呼びます。階段を使って誰かに会うといけないから、はしごをかけて、由良之助はおかるを下ろします。そこでおかるに、いきなり『惚れた、身請けする』と言うわけですよ。

だけどおかるは、早野勘平が死んだことを知りません。自分には約束した人がいると言います。由良助は3日だけでいいと言う。身請けして3日囲ったら、あとは好きにしていい。とにかくいまお金払って、身請けの金を払ってくるから、ここから動くなよ、と指示します。

3日我慢すれば家に帰れるのです。おかるは大喜び。そこに男がひとり入ってきます。それが兄の、足軽の平右衛門です。

そこではじめて兄と妹が『おまえは兄さん』『ありゃ、妹』『会いたかったわいなぁ』と再会します。おかるは平右衛門に、由良助が自分を請け出すことを告げます。平右衛門は、女を請け出すくらいだから、もはや仇討ちはなく、由良之助が心底遊んで女にのめりこんでいると判断します。しかし、そこでおかるが『あるぞい』と言う。仇討ちはある、と兄に告げるんですね。なぜならさっき手紙を読んだから。塩冶の殿様の未亡人から来た、仇の様子を知らせる手紙です。『おぬし、それを残らず読んだか』『残らず読んだそのあとで、互いに見交わす顔と顔』そこで身請けの相談という次第を思い、平右衛門は悟ります。由良之助は身請けをしたうえでおかるを殺す気だ。この話がどこから漏れても、その秘密を知ってる女がいる限りは、ここから漏れたという可能性が否定できない。そのぐらいならご家老様の手を煩わせることはない、自分が妹を殺すという決心をします。平右衛門は、いきなり刀を抜いて斬りつけます。

そこでおかるは逃げます。かかさまもいる、ととさまもいる、勘平さんもいる。平右衛門は言います。お父さんは六月二十九日の夜、人手にかかってお果てなされた。添いたいと思っている勘平は、腹を切って死んでしまった。

おかるは自分が生きていても望みはないと悟ります。兄の手にかかって死んで役に立つならばと死ぬ覚悟をします。兄妹がまさに覚悟を決めたところに、本心が見えたといって由良助が出てきます。まずは平右衛門を仇討ちの一味に加えることを許します。そして、もともとは城中に勤める身の上であったのに仇の一人も取らずに死んでしまった勘平のために、おかるにひと働きさせようと、刀を持ち添えて、いきなり床下に向かってズボッとやるわけです。そして、床下のスパイを引きずり出す。これを鴨川に放り込んでおくようにと言って、平右衛門に渡します。そこで七段目が終わります。

この七段目を、落語の芝居噺では、芝居好きの若旦那が演じます。若旦那はふだんから親父さんから呆れられて、とにかく二階へ上がっておとなしくしてろと言われる。同じく芝居好きの小僧といっしょになって、ふたりでできるところはないかと相談し、七段目のおかると平右衛門がよいのでは、ということになります。引き出しにあった妹の赤い襦袢を小僧に渡し、おかるを演じさせます。また、そこあった本物の刀を持って、若旦那は平右衛門をやります。それが、最後のサゲにつながっていきます」

とじる