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早野勘平と、恋仲のおかるさん。ふたりは塩冶判官のお城に勤めていました。殿様が城中で刀を抜いているとき、ふたりは人の目を忍んでデートをしておりました。やかたに戻ってみたらば、門は閉門されていて中へ入れない。聞けば殿様が刀を抜いて大変なことになっているという。そこで勘平は切腹しようとします。でも、おかるは『ふたりで私の実家に逃げよう』と言います。

実家は京都の農家です。お父さんの与市兵衛(よいちべえ)と、お母さんが住んでいます。お兄さんは平右衛門(へいえもん)という下級武士なんですが、彼はこの段には出てきません。そして、娘のおかると早野勘平さんという婿。この家族にいったい何が起きたかが、この五段目と六段目で描かれます。

先に結論をいうと、父の与市兵衛は殺されてしまいます。婿の勘平は切腹をして死ぬ。おかるは京都の祇園に自ら志願して身売りします。ホームドラマとしてはちょっと残酷なんですけど、そうなる原因はどこにあるかというと、それは短気な殿様が城中で刀を抜いたからなんですね。武士の世界の話が、遠く離れた京都の農家の家族にとんでもない悲劇をもたらす展開です。それが五段目から六段目のおもしろさです。

まず、おかるの父である与市兵衛が殺されます。その後なぜ勘平が腹を切るかというと、てっきり自分がお義父さんを殺したと思ってしまうシチュエーションだったからです。6月29日の雨の降る闇夜、京都の山崎街道で、勘平は一頭のいのししを狩りました(歌舞伎の舞台には、かわいいいのししが登場するんですよ)。勘平は、いのししを撃ったつもりでしたが、そこにいた人を殺してしまっていました。真っ暗なのでよくわからなかったのですが、倒れているのが人間であることに気づきます。そしてその男の懐中には五十両というお金が入っていたのです。

その男がなぜ五十両を持ってるかというと、男が与市兵衛を殺して五十両を盗ったからです。では、与市兵衛はなぜ五十両を持っていたか。それは娘のおかるの身売り金でした。おかるは身を売って、勘平さんが仇討ちに加われるようにお金を作りたいと思っていた。百両で身を売ることに決め、父の与市兵衛が半金の五十両を祇園で受け取って、雨の降る闇夜を歩いて戻るところだったんです。そこを襲われて五十両を盗られた。その男を勘平がいのししと間違えて鉄砲で撃ってしまったのです。

おかるはまだ家にいて、茶屋の女将が迎えにきていました。女将は『たしかに昨日親父さんには五十両渡したんだよ』と言います。おかるのお母さんは、親父さんが帰るまではおかるを連れていかないでくださいなんて言ってるところに勘平が戻ってきた。手には五十両。そこで勘平は、自分が殺したのは舅だ、自分の親を殺したんだと思ってしまう。それで、切腹せざるを得なくなります。

その後与市兵衛の死骸が担ぎ込まれて、死骸を調べたら、鉄砲傷ではないことがわかります。勘平が殺したのは義父ではないことが、六段目の最後では明らかになるんですが、そのときすでに勘平は腹を切ってしまっていて、六段目の最後で勘平は絶命します。

一家を襲った悲劇と真相がはっきりするのは六段目で、いのししのシーンは五段目です。吉坊さんには五段目の、『与市兵衛が殺され、お金を盗られ、いのししが出てきて、勘平が登場、鉄砲で狙って撃って、いのししではなくて男に当たって、男が死んで勘平が駆け寄って、人間であることに驚いて、死骸を探ってそこに金財布があって逃げていく』──その場面を、落語ではなく踊っていただきます。何十分もかかる五段目を、5分間で踊っていただきます」

とじる