十文字美信的世界。
生き方が、もう表現であるような。

第5回 呪術師に見こまれちゃった。




 「『十文字美信的世界』毎日、たのしみにしています。
  ほぼ日で拝見する方は、
  みなさん好奇心旺盛な血が流れているみたい。
  それにしても、十文字さんのモノサシってどんなの?
  この連載が終わる頃にはわたしも少しは
  そのモノサシを知ることができると良いなと思います。
  興味を持って行動するとイモヅル式に
  いろいろと次の物語につながっていくのかなぁ?
  続きが気になるので早く読みたいです。("tera"さん)

 「わたくし、第1回目の話に登場した
  編集者(局長になってないほうの、直接の担当)です。
  『わび』への茶道関係者の反応としては、
  お茶の章だけで充分というまっとうな意見と、
  現代の章こそおもしろいという数寄者に分かれますね。
  ところで、犬にのめりこんだ十文字さんは、
  いま『わびの宗匠』にのめりこみつつあります。
  この対談を読むうち、これから
  とんでもないことになるのじゃないかしらんと
  不安が頭をかすめはじめました……。
  序破急の急ののち、納まるところに話が納まることを
  願いつつ、毎日拝読してます。
(『わび』担当者の方)」


  昨日は、こんなメールも、いただいたんですよ。
  今日も「なぜそこに行ってしまう?」的な展開を、
  十文字さんの直接の言葉で、おたのしみくださいませ!






糸井 これだけおもしろい話があるのに、
ヤオ族についてまとまったのは、
ひとつの写真集……なんだよね?
十文字 そう。
『澄み透った闇』という
1冊を作っただけだけど、
ほんのごく一部を載せただけ。
自分の中での「評皇券牒」という巻物をめぐる旅、
それだけの写真集でした。

でも、当時自分の中で、それ以外に
どうまとめていいのか、わからなかったね。
分野もわからないし……。
糸井 ある種の諦観がないと、作れないよね。
十文字 それでも見た人は
「おもしろい」って言ってくれたんだから、
「それの100倍ぐらいおもしろい話があるよ」
と、こっちとしては、思っていたんですけどね。
糸井 でも、しょうがないよねぇ。
そのおもしろさは、総合芸術だから。
十文字 アハハハハ。
糸井 そんな中でも、巻物を探すっていう
最初の目的は、まだ生きていたんですか?(笑)
十文字 生きてた。生きまくってた。

その呪術師の息子と知りあって、
呪術師の家にすぐに行った……。
何回か行ったあとは、行くとすぐに
その呪術師の家に泊まっていたからね。

呪術師には息子が6人いるんだけど、
誰もあとを継がない。
そのうち、俺のほうは興味があるわけだから、
いろいろ、たずねるわけですよ。やり方を。
糸井 なんか、それじゃ……見こまれちゃうじゃん。
十文字 うん、実際、見こまれた。

32ぐらいある呪術のうちの
6つぐらいは、すぐに覚えちゃったよ。
糸井 犬の調教師の時と同じ展開だ(笑)。
十文字 まぁ、そうだね。

呪術師はどんな仕事をしているかと言うと、
別の村に病気の子どもがいれば行って治療したり、
治療といっても、もちろん近代医学ではないけど。
出産すると聞いたら、
そこに行って、伝統的な儀式にのっとり、
安産を祈念するだとか、
そういう仕事をしているの。
それに、一緒についていくんだよ。
糸井 「カメラマン」がねぇ……(笑)。
十文字 (笑)そう。
写真は撮らないけど、そのころは。

そのうちに、
「せっかくだから家を建てろ」だとか……。
だから俺、当時、その村に家を1個持ってた。
糸井 (笑)そんなことも、やったの!
十文字 当時、別荘持ってたの、ヤオ族のその村に。
糸井 (笑)ハハハハ。
十文字 最後の最後は、できあがった本を持っていった。
お礼の意味をこめて行ったら、俺の家が残ってた。
「その家にはもう2度と来ることはないだろうなぁ」
と思ったから、そこでいちばん親しくしていた
オカマがひとりいたので……。
糸井 え? そういうところでも、いるの?
十文字 いるの。
やっぱりオカマってすごく親しみやすくて、
すぐに仲良くなれるんですよ。
それで仲良くなったそいつに、家をあげた。

そいつはケガしちゃって働けなくなったって
聞いたから、そいつに
家をそのまま、あげたんです。
糸井 その家って、対価は何なの?
十文字 タイの通貨。
糸井 その村の産業って、農業?
十文字 現金収入は、アヘンを売っているわけだから、
彼らは、ものすごいお金持ちですよ。
糸井 はぁー、なるほど。
十文字さんがそこで使ったのは、東京での貯金?
十文字 そうですよ。東京のコマーシャルの仕事ですよ。
糸井 コマーシャルって、いいねぇ、そう思うと。
サントリーのビールを飲んでる人たちのお金が、
働けなくなったオカマの家になったんだ?
十文字 当時は、そういうことになるよね。
糸井 経済の不思議な生態系を感じるねぇ……。
十文字 しばらく生活してるうちに、
ずいぶん、コミュニケーションはできたんですよ。
呪術師は、漢字が理解できるから。

ぼくの書く漢字は100%理解される。
彼らの書く漢字は60〜70%ぐらいぼくはわかる。
だから、ほとんど理解できるんですよ、筆談で。

たとえば、「宇宙」とか書くわけ。
これはなんだ、と彼らに出すじゃない。
そうしたら、ちゃんと書いて答えてくれる。

ぼくは70%ぐらいしかわからないから、
日本に帰ってきてから、
中国人の知りあいたちに聞くわけですよ。
「これってどういう意味だ」と。
漢字といっても今では使われていない
古語みたいなものもまじってるから。

で、だんだん、辞書調べたりいろいろして、
けっこう、わかりましたよ。
それと、会話に関しては、
テープを持っていって、録音してくるんです。

それを日本に帰ってきて、
クルマを運転しながら、いつも流して。
語学の練習ですよ。
当時は、ヤオ語もずいぶんしゃべってたんだよ。
いまはすっかり忘れたけど。
糸井 十文字さん、勉強家だよねぇ……。
十文字 でもおもしろいよ。

当時は、たぶん、日本人で
いちばんヤオ語を話すのは俺だろう、
なんて思ってたよ。
糸井 (笑)ぜったいそうだよ。「ひとり」だもん。
十文字 最後のほうなんかさあ、
朝起きて、あいさつして、メシ食って、
畑に行く若い女の子なんか、からかえたもの。
「おぉ、かわいいケツしてるねぇ」
とか、そういう言葉は、ちゃんとできるもんだね。
糸井 すごい!(笑)
期間としては、どのぐらい行ってたんですか?
十文字 7年ぐらい。
1回、1か月ぐらい行っていて、
前後の準備に1週間ぐらいかかったから、
実質は、7か月弱ぐらいになるのかな。
糸井 その1か月には、仕事を入れないようにして。
その1か月以外は、
日本でふつうに、仕事をしてたんだよねぇ……。
十文字 うん。
糸井 みんな、何も知らないから、
「なんか、あっち行ってるみたいだよ」
とか言ってたぐらいだったと思う。
どうせ、まわりにだって、
詳しく説明していなかったんでしょう?
十文字 うん、そうだね。

もともと、
何かにまとめてやろうとかいう目的はなくて、
自分のために行ってるわけだから。
結果的には、
「あぁ、こういう体験だったなぁ」
と思って、チョロッと本にはしたけど。


(あさって日曜日の第6回に、つづきます)

2003-01-17-FRI


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