もくじ
第1回誘うとき、誘われるときなんて言う? 2017-10-17-Tue
第2回人前に立って、ゆれる気もち 2017-10-17-Tue
第3回心のやりとりの基本は100円玉で 2017-10-17-Tue
第4回ややこしくして晴れるなやみもある 2017-10-17-Tue
第5回やり続けたこと、人を喜ばせること 2017-10-17-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

燃え殻さん、 調子はどうですか?

燃え殻さん、 調子はどうですか?

担当・朝倉由貴

第2回 人前に立って、ゆれる気もち

糸井
誘いの返事に「いいね」しかもっていなかった燃え殻さんが、
この2か月を過ごしてきたというのは、すごいね。
燃え殻
どこか自分は欠損していると思っていたんです。
糸井
我慢して人前に出ることとか?
燃え殻
それが普通にできなきゃいけないと思ったんです。
法事とかで話す機会が少しずつ増えるので。
糸井
法事は俺、全部逃げてる。
燃え殻
そんなに社会性なかったですか。
糸井
社会性というか、それは確信をもってやってるから平気。
法事については考えがある。しゃべらない。
燃え殻
葬式も?
糸井
葬式も。
燃え殻
遺影に向かってしゃべらない?
糸井
しゃべりたいときは僕の勝手でしゃべるけど。
・・・・・・あ、弔辞は2度やったことがあるわ、そういえば。
その人との関係であらかじめ頼まれて。
それは断れないよ。
燃え殻
ああ。
糸井
そのふたつはやったけど。やらないと決めればできますね。
燃え殻
でも、糸井さんだからなあ。
糸井
同じだと思うよ、誰でも。
燃え殻
同じですかね。僕、慣れないといけないと思った。
糸井
いいよ、別に(笑)。
燃え殻
もう今は、新人レスラーの夏のカーニバルみたいに、
8試合連続で先輩に当たる。それをやっているつもりです。
糸井
自分のための練習としてはありかもしれないね。
燃え殻
「何か見えてくるいい機会かもしれない」なんて思いながら
お話をさせていただいていますけど。
サラリーマンだったら、プレゼンをする機会とかもあるじゃないですか。
僕はこもって作業する、それがないサラリーマンだったんです。
友だちにそういうことをしていると聞くと、自分には足りてないと思って、少しやろうと。

糸井
対談じゃなくてしゃべるのはOKですか。
燃え殻
社内ミーティングで話をするのも苦手でした。
糸井
苦手かどうかで言えば、僕も同じですよ。
燃え殻
そうですか?
糸井
社内ミーティングで1人でしゃべりまくってますけど。
得意じゃない、苦手だね。
燃え殻
今でも苦手だと思います?
糸井
思いますね。
燃え殻
へぇ~。
毎週やってて、その日の朝に緊張するんですか。
糸井
緊張はしないけど、そのとき永ちゃん
(※ロックミュージシャン・矢沢永吉さん)が出てきて、
「楽しめ」って僕に声をかけるんですよ。
燃え殻
糸井さん、心の中に永ちゃんを飼ってる?
糸井
飼ってる。あきらかに僕の心の中には永ちゃんがいる。
燃え殻
ピンチのときとか、自分がウッてなったときに、永ちゃんが語りかけてくれる? 曲が流れるんですか。
糸井
そんなふうにはなんない(笑)。
永ちゃんが「俺もステージの前はドキドキする」って真面目に
言っていたわけよ、あたり前のように。
燃え殻
へぇー。
糸井
前の日に、洗面所とお風呂とかで鏡に向かって
「おまえならできる」って言い聞かせるんだって。
そうなんだろうと思ったの。永ちゃんはね、嘘はつかないのよ。
それで、いざコンサートが始まるときは「負けねえぞ」と
思わなきゃなんないから、「頑張れ。おまえならやれる」って
鏡の自分に言う。
燃え殻
語りかけて。
糸井
うん。で、ある段階までいったら今度は、戦いじゃなくて、
「楽しめ」って言うようになったんだって。
僕は何度も原稿に書いたけど、この言葉のもってる意味って、
ものすごくて。
自分と心待ちにしてくれている人たちが楽しめばいいなら、
勝ちも負けも失敗も成功もなくなるのか、って。
燃え殻
ああ、そうかもしれない。
糸井
それはうれしくなっちゃうわけで。
この「楽しめ」を覚えたおかげで、これまで僕は嫌なこと、
苦手なことをどれだけしのげたか。
別に永ちゃんの歌が聞こえてくるわけじゃないよ(笑)。

燃え殻
僕、大根さん(※映画監督・大根仁さん)とのトークショーが
始まる前に、「嫌だ、嫌だ」と言っていたんです。
そしたら、担当の編集者が「いいんですよ。お客さんは動いてる姿を見たいだけなんですから」って。
糸井
なるほど。
燃え殻
ああ、そうかと。
大根さんも「いいこと言わなくていいよ」って言ってくれて、
そのままでいいじゃないかって。
それまでは、マイクをつけて、1段高いところから話すから、
名言じゃないけど、いいことを言わないといけないんじゃないかと思って、嫌だったんです。それが思いつかないから。
糸井
よくわかります。
燃え殻
「そんなことは誰も期待していない。いってらっしゃい」
って言われて。そうしたらできたんですよね。
糸井
特に対談は、相手がなんとかしてくれることがあるから。
「ご飯つぶついてるよ」って言ってくれるじゃない。
燃え殻
そうですね。
糸井
だから、何でもいいのよ。
新人の立場で対談だったら、問題ない。
相手が「いいこと言わなきゃ」タイプの人だったりすると
面倒くさいから断ればいい。
燃え殻
なるほど。
糸井
見分ける方法はあんまりないけど、勘でわかると思うよ。
本の宣伝が目的で出てくるような人とかね。
商業活動として来る人は、その舞台でいいことを言って、
売り込むのが仕事だから。
「20回フラれても19回モノになるナンパの仕方」という
本を出してる人なら、「燃え殻さん、こうじゃないですか?」
って、本に書いてるようなことを言う。
相手が大根さんだったら、そんな心配はない。
きっと、ただ会って話そう、だよ。
燃え殻
ロフトのときも「10分前に来てくれ」って。何もない状態で、
ドーンといこう。そのほうがいいじゃないか。
それが面白いって、糸井さんは思うんですね。
糸井
「このことは伝えなきゃ」みたいなものはひとつもないから。
あると僕はできなくなる。それが仕事になってしまうので。
燃え殻
「これだけは言ってくださいね」みたいな。
糸井
もしそういうことがあるとしたら、時間を区切って、
急に言ってもらいますね。
で、ギクシャクしたら、「ギクシャクしてますね」って言って、
また違う話をしたい。
燃え殻
そっちのほうがいい。
糸井
楽だったでしょう?
燃え殻
はい。そういう意味で、僕が会ったのは楽な人ばっかりだ。
このあいだテレビに出たんです。
そしたら、僕が言う質問が1個あったんですよ。
もう気になっちゃって。ずっとそのことを考えてた。
1個入っちゃうと、全部だめになるんですよ。
糸井
わかる。
燃え殻
「これだけは外せないので、きっかけを出しますから。
ほかはフリーでお願いします」って。
でもそのきっかけを、ずっと見ていました。
糸井
今テレビは、それの山になっていて。
始まる前からできあがってるんですよね。
ほとんどが台本どおりに、そのとき考えついたかのように
しゃべって進むっていう形だから。
望まれた面白さにはなるんだけど、そこで失われる何かが
嫌なんです。
燃え殻
求める答えがあるんですよね。
糸井
みんなの役に立つことにしたいから。
「卵に穴あけておくと、ゆで卵をむくとき、うまくむけます」
「あっ、だから穴をあけたんですね」みたいな。
コツと結果を求められる。
燃え殻
なるほど。そうかもしれない。
スマホで小説を書いたということで受けた取材の中で、
僕の答えが書いてあるシートがきたんですよ。
「スマホで書いたことによって、スマホ世代の人たちに
読まれる小説になりました」って。
糸井
ああ‥‥。
燃え殻
「答えはそうじゃなくてもちろんいいんですけど、
一応書いておきました」って。ちょっとそれがやっぱり‥‥
糸井
引っかかるよね。
燃え殻
「移動時間に書くことで効率がよかった」っていうのが
僕の答えなんですよ。
たとえば小説には日比谷線の場面が出てくるんですけど、
実際に日比谷線に乗りながら書くと都合がいいんです。
糸井
うん。
燃え殻
でも、スマホ世代の人を意識して書いたということも、
フレーバーのように混ぜる自分がいて。
うっすらと、求められたものに沿わせて答えたんです。

糸井
ああ、ちょっと重いよねえ。
燃え殻
仕上がったものを見ると、そこが強調されていたりする。
糸井
他人が言ったら、「えー?」って思うようなことを、
自分が言わなきゃいけないんだよね。
燃え殻
そう。
糸井
『11PM(イレブン・ピーエム)』という番組で愛川欽也さんに、
「原宿のことだったら何でも、糸井ちゃんに聞くんだよ。
『原宿ちゃん』と呼ぶくらいだから」と言われたことがあって。
僕は原宿で仕事して生活していただけで、別に何も知らないから、「違う!」って思ったんだけど、その場ではもうヘラヘラしているしかない。
これはイカンと思って、そういう番組には行かないことにした。
流行について知っている人みたいな立場でしゃべらされるのはよくないと思って。
燃え殻
ご意見番みたいな。
糸井
流行とか若者の生態みたいなことについて、自分が若いから
くわしいって思われるのは、別の若い人に追い抜かれるために
いるようなもので。
そんなところで消費されたくないから、行かないと決めた。
でも、燃え殻さんは自分で書いたものの話が多いだろうから、
なかなか断るのが難しいね。
燃え殻
難しいですねぇ。
第3回 心のやりとりの基本は100円玉で