浅生鴨さんの嘘のようで、ほんとの話。
第2回 溶け込むか。飛び抜けるか。
- 糸井
-
神戸で生まれて。
- 浅生
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ずっと神戸で生まれ育って、
高校を出てから東京にやってきたと。
- 糸井
-
神戸で、何をしてましたか。
みんなと溶け込んでたんですか?
- 浅生
-
表面上は、溶け込んでました。
その頃ちょうど校内暴力時代だったんですよ。
- 糸井
-
俺、それ知らないんですよね。
人から聞いた話だと、
西部劇の中のならず者みたいな人たちだらけで。
- 浅生
-
ほんとにすごい時代ですよ。
スクールウォーズの時代ですから。
これ言うとみんなビックリするんですけど……
中学校の先生がヌンチャク持ってるんですよ。
- 糸井
-
また、ちょっとおもしろくして(笑)。

- 浅生
-
いや、これ本当なんです。
- 糸井
-
そう? ヌンチャク的な白墨とか何か。
- 浅生
-
本物のヌンチャク持ってるんです。
竹刀の先生とヌンチャクの先生がいて、
悪いことする生徒は、頭をやられちゃうんですよ。
でも、生徒側もタダではやられないので、
そこに対抗しに行ったりするようなワルの生徒は……
っていう、『マッドマックス』のような世界で。
今考えると、ほんとに不思議な……。
- 糸井
-
地域にもよるんでしょ。
- 浅生
-
もちろん、そうだとは思いますけど。
- 糸井
-
あなたが見てこられたのが、
そういうとこなんでしょ、きっと。
そう信じたい(笑)。
- 浅生
-
高校の時には収まってきたんですけどね。
うちは、神戸の中学校・高校の中では比較的……、
まだマシなほうだったみたいですし。

- 糸井
-
ヌンチャクが?
- 浅生
-
まだマシな方で。
- 糸井
-
そうするともう、
イガイガした鉄の玉とかになっちゃうじゃない。
- 浅生
-
バレーボールに灯油をかけて、
火を付けて投げる、
みたいなことをやってる中学もあったので。
ただ、幸いうちは山の上に中学があったので、
他校が殴り込みに来れないんです。
ものすごい坂で、みんな息が上がっちゃって。
- 糸井
-
タバコ吸ってるから、息も切れやすくて。
- 浅生
-
まぁ、そんな感じの。
わりと荒れた学園みたいな。
- 糸井
-
その中で、あなたは何の役なんですか?
ヌンチャク部じゃないですよね。

- 浅生
-
ぼくは、うまく立ち回る役です。
さすがにヌンチャクはやらないですけど。
- 糸井
-
何をやったんですか。
- 浅生
-
強そうな悪い奴がいたら、
そいつの近くにいるけど積極的には関わらない、
腰巾着までいかないポジションを確保っていう。
真っ向から対抗はしない。
- 糸井
-
意外と体つきがいいから、強かったんですか?
- 浅生
-
いや、中学の頃とかヒョロヒョロで小さかったです。
ターゲットになるとしばらくイジメられるから、
とにかくターゲットにはされないように立ち回るっていう。
- 糸井
-
でもそんなのさ、
結局は相手が決めることだから、
なかなかうまく行かないでしょ?
- 浅生
-
相手が得することを提供してあげればいいんです。
中学生だから単純で、褒めれば喜ぶわけですよね。
その子が思いもしないことで褒めてあげれば。
- 糸井
-
どうやるの?
- 浅生
-
喧嘩が強いやつに、
「キミ、字、キレイね」って。

- 糸井
-
すっごいね、それ。
- 浅生
-
「喧嘩強いね」っていうのはみんなが言ってるから、
言われた方も「おっ」ってなるじゃないですか。
そうやって何とかポジションを。
- 糸井
-
「字、キレイ」で。
- 浅生
-
ものすごい嫌な人間みたい(笑)。

- 糸井
-
今も似たようなことやってますね、なんかね。
- 浅生
-
そうですね。
ちょっと違う球を投げるというか、
常に立ち位置をずらし続けてる感じが。
- 糸井
-
安定してると、やっぱり人がじっと見てるうちに
弱みとか強みがわかってきて、
いいことも悪いこともあるんだけど、
どっちもなくていいやと。
- 浅生
-
はい。多分子どもの頃から、
あんまり目立ちたくないというか。
- 糸井
-
それは、自然に目立っちゃうからでしょうね。
- 浅生
-
どうしても目立ちがちなので、
なるべく目立たないようにするには
どうしようかなっていう。
- 糸井
-
うん。
- 浅生
-
目立たない方法は2つあって。
ほんとに気配を消してうまく溶け込むか、
逆に突き抜けるぐらい目立っちゃうか、
どっちかしかなくて。

- 浅生
-
バーンって飛び抜けて目立っちゃえば、
それはもう普通の目立ってるとは違うので、
また違う立ち位置に行けるんですよね。
だから、いつもそのどっちかをわざと選ぶというか。
溶け込むようにするか、
思い切ってワーッて前に。
- 糸井
-
目立っちゃうのって、どういう経験?
- 浅生
-
何でしょうね。
- 糸井
-
NHK_PR時代なんて、
結構そういう開き直りを感じましたけどね。

- 浅生
-
ああ、そうですね。
- 糸井
-
陽動作戦みたいに、呼び寄せて逃げるとかね。
NHKっていう名前がついていながら
ああいう役をやるっていうのは……
まず、ノウハウがないじゃないですか。
あれはおもしろかったね。
- 浅生
-
おもしろかったですね。相当ムチャでしたから。
まぁ、あれも結局、
やっちゃって飛び抜けちゃったほうが楽になるっていう。
たしかに楽になったんですよね。
- 糸井
-
自分も楽になるっていうことですか?
- 浅生
-
ええ。1番いいのは、
「あいつはしょうがない」
って思われると1番楽ですよね。
- 糸井
-
でも、「あいつはしょうがない」の中にも、
本当に迷惑なだけの人がいるじゃないですか。
そういうのは嫌でしょう?

- 浅生
-
嫌です。
- 糸井
-
だから、「あいつはしょうがない」けども、
あんまり人に迷惑かけてないっていうのは、
なかなかすごいバランスのところに立ってますよね。
- 浅生
-
そうですね。
だから、「あいつはダメだ」なんです。
- 糸井
-
いや、多分どっちでもなくて、
「おもしろい」になっちゃってるんじゃないかな。
- 浅生
-
最終的には。
- 糸井
-
うん。NHK_PRは、おもしろいが武器になっていたケースで。
あの、何だろう。
「それは人が言ったことがないな」
みたいなことが結構いっぱいあった。
- 浅生
-
そうですか。
(つづきます)