第4回 プラスとマイナスはセット

糸井 音楽家としてはともかく、
経営者としての永ちゃんがたどってきた道は、
平坦じゃないよね。
矢沢 問題ばっかりだよ。
「なんなんだよ、問題ばっかり起こりやがって!」
って思うくらい、つぎからつぎ、来るからね。
糸井 問題を、呼ぶかのように。
矢沢 呼ぶねぇ。
よくまあ、呼ぶよ。俺のところ。
誰かが言ったのよ。
「それは矢沢さんが耐えうるから、
 神様が試練を与えたのです」って。
ふざけんなよって。
糸井 他人は言えるよね。
矢沢 本人は「勘弁してくれよ」だよ。
糸井 ま、正直、永ちゃんになりたいかって言ったら、
オレはなりたくないもんね。
たいへんさを知ってるとさ。
矢沢 いや、そうかもしれないよ。
糸井 そうだよ。
あんた以外には引き受けない。
矢沢 矢沢永吉を引き受けられるのは、
俺しかいないと。
糸井 うん。
矢沢 あんまりおいしくないよ。
糸井 (笑)
矢沢 うそじゃないよ。
あのね、なくしたものも、ものすごいから。
窮屈なのも、ものすごいから。
でもね、どのジャンルの人も、どの人も、
それなりに、めんどくさいこともあれば、
イヤな思いも抱えてる。
大きさや場所は、違ってもね。
すると、そこを、どう、いいふうに持っていくか、
いい方に考えるかということが大切で、
そうやって、みんな生きてるんじゃないかな。
糸井 うん。
矢沢 最近はね、そういった意味じゃね、
「矢沢」を気持ちよく生きたいなと思ってる。
一時期は、やっぱり、
「矢沢」辞めたいと思ったこと何度もあるからね。
糸井 その反発をエネルギーにしてた、
みたいなとこあるよね。
矢沢 ある、ある!
エネルギーにもしたし、がんばりもしたよ。
それでも「矢沢」なんか
ヘドが出ると思ったことあるよ。
糸井 ああ、そこまで思うことがあるんだ。
矢沢 そりゃあるさ、糸井だってあんだろ?
「糸井重里」辞めたいと思ったこと、あんだろ?
糸井 なるほどな(笑)。
永ちゃんでもあるんだね。
矢沢 みんなあるよ。
だからさ、みんな、ぼくも、あなたも、
人のことを、うらやましがってもしょうがない。
糸井 そうだね。
矢沢 いいことも、わるいことも、あるよ。
昔、ぼくが言ったこと、覚えてる?
「プラスの2を狙ったら、
 マイナスの2が背中合わせについてくる。
 プラスの5を狙ったら、
 マイナスの5がついてくる。
 プラスを狙わないなら、
 マイナスもこない。ゼロだ」って。
で、どうしますか? って、神様が言うんだよ。
俺は、若さがあったから、言えたんだよ。
「えい、くそ、一度の人生、
 オレは10狙ってやる!」ってね。
そしたら、まちがいなかったね、
10の敵が来たよ。
糸井 裏表がセットなんだね。
矢沢 セットなんだから、
いろんなことが足引っ張るんだよ
めんどくせーわけよ!
10の夢を見たら、案の定、
10の面倒くさいことがきたよ。
だけどさ、面倒くさいからとか、いやだとかで
一歩も動きません、ゼロでいいです、
というのは悲しい話でね。
糸井 若いときの永ちゃんが、
いまの永ちゃんをつくったわけだからね。
矢沢 そうだよ。
「10、行ってやる!」って
俺が言ったんだもん。
‥‥これさ、就職の話と関係ある?
糸井 ある、ある(笑)。
すごくあるよ、大丈夫。
矢沢 そう?


(続きます!)




写真:富永よしえ [Mild inc.]

2007-06-11-MON