糸井 では、次の質問にいきましょう。
「この人がジャズを歌ったらいいだろうな」
と思った、アーティストのかたはいますか?
タモリ これはびっくりしたんですけど、
美空ひばりですね。
山下 そう。うまいんだよね!
タモリ 美空ひばりのジャズ、残ってますよ。
山下 残ってる。めっちゃくちゃ、うまい!
タモリ 16歳くらいのときに
ジャズを歌ったのが残ってるんですけど、
ものすごいうまいです。
美空ひばりって思えないですね。
山下 思えない……。
タモリ ジャズボーカルの人って、
ジャズっぽくうたうようにするんです。
なんだか、ヘンなジェスチャーで……。

なんだかよくわかんないんだけど、
鼻の奥あたりで歌うんです。
「♪イヤァ!」(ジャズのマネ)とか。
糸井 (笑)
タモリ そういう歌をきくと、
わたくしはかなりムカつくわけですけど。

なんで素直にやらないのかと。
自分の中の「ジャズ」という
概念でやってしまうんですね。
糸井 なるほど。
タモリ だけど、美空ひばりは、まったくふだんどおり、
ほぼ譜面どおりに、歌ってるんですよね。
山下 『A列車で行こう』があったと思います。
タモリ うん。スローなやつもある。
ぼくはスローなやつを聴いたんですけど、
あれには、驚きましたね。
日本で最大のジャズ歌手だと思います。
そのまんま歌っているんですけど……。

昔、『今夜は最高!』で、
美空ひばりさん来られたとき、
目の前で『A列車で行こう』を歌ったんです。

ジャズのバンドが
まわりをぜんぶやってたんですが、
全員が、もう、笑っていましたからね。
「なんで、こんなにスウィングするんだ?」と。
世界に出しても、ぼくは有数だと思いますよ、
あの美空ひばりのジャズは……。
糸井 チャーリー・パーカーからつづく、
天才の話ですね。
タモリ 天才ですね、あの人。
天才は、ジャンルを超えるんですね。

……横浜には、
『演歌とジャズ』っていう店があるんですけど。
糸井 (笑)コーヒー&ラーメンみたいな感じ?
タモリ そうそう。
その『演歌とジャズ』って店では、
演歌は、美空ひばりしかかけない。
糸井 なるほど、なるほど。
タモリ その店の人は、やっぱり、
美空ひばりをジャズと思ってるんですね。
糸井 他には、じゃあ、いない?
タモリ 他には、ちょっと失礼ながら、あんまり……。
糸井 美空ひばりっていうのは、群を抜いているんだ。
タモリ ええ。世界的なレベルだと思います。


2005-05-19 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005