糸井 では、次の質問です。
「バッハも即興演奏をしたとききます。
 なぜ今のジャズメンは、
 バッハっぽい演奏をしないのでしょうか?」
山下 してますね。
これはもう、いろんな人がやってます。
たとえば、ジャック・ルシェーという人は、
バッハの平均律をジャズトリオでやりまして……。
タモリ オイゲン・キケロなんかもやってますね。
山下 やりますね。
それから、ジョン・ルイスもやっています。

ジャズマンというのは、一度は
モダンジャズのフレーズをおぼえるんです。
手本はおもにチャーリー・パーカーですけど。
ただ、チャーリー・パーカーの吹く曲は、
すごくバッハに似ちゃっうところがあります。
糸井 似ちゃってるんですか?
山下 そう。似ちゃってるの。
糸井 チャーリー・パーカーというのは、
さっき言った、「天才」ですよね?
山下 そうです、そうです。
タモリ 天才です。
山下 なんでこんなに似たかは
わからないんですけれど、
バッハをやってみますと、
「なんでパーカーに似てるんだ?」
と、ぼくは逆にそんな体験をしました。

高校生の時にジャズのフレーズを
コピーしていて、
そのあとに音大にいこうと思って、
ピアノのレッスンに行ったりなんかして……
そこでバッハのインベンションだとかを
弾きはじめたら、あっというまに
チャーリー・パーカーが出てきてうれしくなって。

だから、モダンジャズのフレーズというのは、
なぜかかならずバッハに似るところがあって、
ジャズミュージシャンは、一度は
バッハを意識するのではないでしょうか?
糸井 そのバッハっぽいっていうの、
耳で、教えていただけますか?
山下 はい。
これからおききになるのは、
たぶん、バッハっぽいです。

じゃあ、ぼくの曲で、
「エコー・オブ・グレイ」
という曲をおききください。



(演奏)

タモリ ああ、バッハっぽいですねぇ・・。
糸井 何がバッハの正体なんだか、
わかんないままなんですが、
解説はしないほうがいいんですかね?
山下 うん。
やっぱり、
バッハっぽいフレーズを
たくさん用いた、といいますか。
タモリ 今、ちゃんと、
バッハっぽいアドリブにしたというんですか?
山下 そうですね。
糸井 そういうのがすぐにできるというのは、
やっぱり、かっこいいなぁ。
タモリ バッハ以前の音楽は、
バッハだけじゃなくて、
即興演奏やってたらしいんですよね。
山下 うん。
タモリ 集まっちゃあ適当に即興演奏やってたらしい。
山下 ベースラインが決まってるから、
そこで和音も決まってるんです。
チェンバロが和音を弾いたりしているうえで、
勝手なことをやる腕前をきそったわけですね。
タモリ 世界的なさまざまな音楽をとっても、
アジアや中近東やアフリカなどなど、
クラシック以外の音楽のほとんどは、
アドリブを持っているんです。

逆にクラシックが
アドリブを持ってないっていうのは、
おかしいことはおかしいんです。
糸井 かつてあったのに
なくなっちゃったっていうことは、
何か理由があったんですね?
山下 そう。それは、作曲家独裁だね。
糸井 あ、「俺の歌をやれ」と……。
タモリ (笑)「おまえの解釈は許さんぞ」
糸井 「俺の台本を、一字一句変えずに演じろ」?
タモリ それです。
山下 作曲家たちが書いて
残っているものがすばらしいので、
その通りやるだけでも、
すごい音楽がよみがえる……
これが、クラシックの構造なんですけどね。


2005-05-16 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005