糸井 ブルースやジャズは、愚痴なんですか?
タモリ ブルースの愚痴が、
ジャズにも入っています。

アドリブのなかには、
ジャズマンのくりごとが入るんです。
「俺はこんなふうに、たいへんだった!」
だから、ジャズは、きくんじゃなくて、
きいてあげるもの、なんですよね。
糸井 あらゆる芸術はそうだと、
ぼくは最近いいたいんです。
タモリ ええ。
ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅいってるのを、
「あ、そう?
 ほんとぉ?
 苦労したんだなぁ」
と、きいてやるのが、
ジャズを好きになる人なんです。
糸井 これからの時代は、
他の芸術も含めて、演奏する側が
お金を払うようになるんじゃないか。
タモリ そうそうそうそう。
糸井 昔から、実はそうだったんでしょうけど。
タモリ 「ちょっときいてくれ」ですもんね。
「きかない。俺はしゃべりたいもん」
これは、ジャズがきらいになりますよね。
かなしい時や、うれしい時にきくんじゃなくて、
つまり、相手の話を「きいてあげる」んですね。
山下 どちらも、別のもではあるんです。
ブルースはブルースで、ジャズはジャズ。
ただ、どこかに接点はあるわけですよね。
ブルースの節が、ジャズの中に入ったり。

まぁ、ブルースを味わったものでないと、
ジャズはできないぞという民族派もいますが。
タモリ たとえば、
いわゆるジャズのブルースというのは、
12小節と決まっています。
山下 その12小節がなぜできたかというと、
ブルースがそんなふうにできているからです。
「オレは今日も、ズキズキ頭で目が覚めたよ」
と、まずは、いう。
それで2回目に、またそれを4度上げて、
同じことを言うんですね。
それで最後に、
「なぜならば」って言うんです。「女が逃げた」
糸井 (笑)「逃げちまったからだよぉ」って?
山下 こういうのが、
ほんとに演歌の定形みたいに決まってるんです。
タモリ だいたい12小節で終わるんです。
主張したいことを2回述べて、
そのあとに、原因をいう。
同じことをくりかえすやつの話を、
「きいてあげる」というものです。
糸井 では、次の質問にいきます。
「フリージャズをやっている人は、
 かっこいいと思ってるんですか?」
タモリ これは山下さんにきかないと。
糸井 フリージャズといえば
山下さんといわれてますが、
こんな批判的なご質問がとどきました。
山下 まあ、人それぞれでいいんですけどね。
糸井 フリージャズが何かということを、
ジャズがはじめての人というには、
ますますわからないと思うんです。
山下 ジャズは
すごくレンジが広いから、何やってもいい。
いきなり出ていったやつが叫んで帰っても、
それはジャズだといいはればいいわけです。
それも「自分の表現」だし「即興」だから。
ただ、けっこうなしばりのなかでやるものもある。

フリージャズは、なかでも
特に勝手にやっていいというものなんです。
勝手なところが、とても多くなるわけです。

これからお見せするのは、
テーマはちゃんと決めてあるものですから、
「ほんとうにフリーかよ?」
といわれたものですけど、
テーマの中に入れば、
あとはもう、むちゃくちゃなんですよね。

……では、そんな見本を、お見せします。
1970年代の「キアズマ」というぼくの曲です。
糸井 フリージャズにもタイトルがあるわけですね?
「キアズマ」。よろしくおねがいします。



(演奏)

糸井 (拍手)すばらしい!
山下 ……ってなことです。
糸井 山下さん、フリージャズが、こんなにウケてます!
山下 ありがたいことです。
タモリ なんか、スカッとしますよね。
世の中、めちゃくちゃにしたような感じで。
糸井 (笑)
糸井 フリージャズをきくと決めている
お客さんにウケてるのはさんざん見てますが、
こんな、不慮の事故としてきいた人たちから、
これほど拍手がきたというのは感動的でした。
山下 けっこう、いちばん、
当たり前のことをやってるんです。

「俺がこうやるけど、おまえは何を?」

「……あ、こうやったのになぜ合わせない?」

「じゃあこうしてやる」

「まだ合わせないな? どうしてくれる!」

そういうようなことですね。
ほんとは合っているけど遊んでいたりとか、
そういうやりとりというのは、
いちばん簡単なことですから、
絶対に伝わるんです。
糸井 つまり、おたがいの自由を確保しながら、
ふたりがやりあっている感じになるんですね。
山下 はい。
最後にテーマをもういちど出しまして、
終わりかたもはっきりさせましたので、
余計に、わかってくださったと思うんですけどね。

よく考えたら、ぼくは、
最初のフリージャズトリオのときから、
いつもテーマには戻ってくるんですね。
そういうやり方を、1969年からですから、
79年、89年、99年……もう35年もやっています。
タモリ そうですね。


2005-05-08 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005