山下 ジャズをよくきいている人と、
きいていない人の差が出る部分は、
なにかというと……。

いま演奏した部分についても、
「この曲をやったんだな」
と思いますよね。
「あの人がやったこの曲も知ってる。
 この人のやったこの曲も知ってる」
と思うわけです。

落語とおなじで、
その差をきいたりしますね。
糸井 なるほど。
「今日の演奏は、
 こういうところがよかった」
といえるわけなんだ。
山下 そうやってきけば、
「この人たちはどうなのか」
を、一層たのしめますよね。
糸井 やっぱり、きいてる回数の多い人は、
またちがうたのしみかたがあるんだ?
山下 どんな分野でも、そうですよ。
糸井 なるほど。

今日、会場にいらしたかたで、
ジャズをきくのがはじめてのかた、
手をあげてくださいますか?
タモリ お、けっこういますね。
山下 こりゃあ、うれしいね!
タモリ そういうかた、
今日来てよかったです。
ヘンなジャズファンに扇動されて、
よからぬ方向にいく人、多いですから。
山下 (笑)
糸井 山下さんが
ジャズにはじめて出会ったのは、
どういうきっかけだったんですか?
山下 ジャズをきくより先に、
ピアノに触っていたほうです。
すごい子どものころから。

勝手に自分で耳でおぼえたメロディを
探って弾いて、和音をくっつけて……。
それがうれしいなぁ、とは思っていたんです。
タモリ 山下さんのところは、音楽一家なんです。
それはそれは上品なご家庭なんですよね。
山下 (笑)いやいや、ちがいますちがいます。
糸井 お札になっても平気な人ですもんね。
タモリ ええ。
その上品な家庭のなかで、
山下さんだけが、
泥まみれになって遊んでいて……

外から帰ってきては、
そのままピアノをいじくりまくるので、
それをお母さんがイヤがって、
山下さんが帰ってくると、
ピアノにカギをかけちゃった。

でも、他の人は
ふつうのサラリーマンになって、
山下さんだけがピアニストになった、
というのが、これも不思議ですよね。
糸井 そうなんですね。
タモリ でも、同級生にきいたんですけど、
音楽大学にいたころの山下さんは、
野球ばっかりやってたそうですけどね。
山下 (笑)
糸井 山下さんは、
そんなふうにジャズに会ったという。
山下 とにかく好きなことをやるという……
そういうことも
ジャズのなかにはあるわけです。
もちろん、最初にお伝えしたように、
クラシックのような制約もあるんですけど。
タモリ 和音の時も、使っていい音と、
使ってはいけない音があって、
それを、瞬時に判断しながら……
しかも、わざと使っていけない音を
使うときもあるんです。
山下 そうです。
それがいわゆる、
スタンダードジャズってやつですね。
糸井 それが、だんだんと、
気持ちがよくなってくるんですね?
タモリ ええ、だんだんと。
クサヤみたいに慣れてくるんです。
山下 メロディーだけじゃなくて、
ベースとドラムのリズムがどう合っているか、
弾むようなスウィング感がどうなっているか、
というのをたのしめるようになると、
余計におもしろくなってきます。
糸井 「弾むようなスウィング感」!
なんか、大事そうな言葉が……。
タモリ 随所にむずかしいことが出るから、
糸井さん、今日はきっと、そこで
「それはなんだ?」
と、言ってやったほうがいいです。
山下 はい。
「スウィング」については、
あとでゆっくり、しゃべりましょう。


2005-04-30 (c)Hobo Nikkan Itoi Shinbun 2005