イトイの読んだ本、買った本。
 
イトイの読んだ本
『木を変える』
著者:石井 幸男、塩野 米松(聞き書き)
発行:アートオフィスプリズム
価格:¥ 1,995(税込)
ISBN-13:978-4904659007


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イトイはこう言っている。
『木のいのち木のこころ 天・地・人』
塩野さんが聞き書きした新作ですから、
これは逃せないな、と思っています。
宮大工さんの世界ではなく、こんどは、
建築の素材のほうらしいです。
きっとすごい人に会って、
新しい本をつくる動機になったんでしょう。
 
生い立ちだけでも十分に衝撃的です。
貧しく苦しい、でも他人のために尽くし通したご両親。
そのご両親と故郷の村を
なんとか幸せにしたいという想い、
それから、生まれ持った激しい闘争心と執念の強さが、
戦後から高度成長期にかけての
時代のうねりと合わさり、本当に圧倒されます。

とにかく若い頃は怒って闘って怒って闘って‥‥。
でも、お世話になった住職さんの教えから、
今度は家族を守り、信念を守るために闘い始めます。
一度、方向を決めたら、
体がぼろぼろになるまで進みっぱなし。
大病をした後、さらに哲学は研ぎ澄まされて、
たどりついたのが、
木の加工方法である「EDS加工」。

どんな節くれだった木や曲がった木、クセのある木でも、
割れやすい竹や繊維ばかりの南国の植物でも、
とにかくなんでも
固く締まった使いやすい木材にしてしまう魔法の加工。
窯にいろいろな種類の木を丸太のまま放り込んでも
たった数日でそれぞれが適度に変化している、簡単さ。
どんな木でも、打った釘が抜けず、
端や節に打っても割れず、
建築資材として使えるようになるのだそうです。

これで、日本の林業が立ち直る、
貧しいアジアの国で産業を生むことが出来る、
地球だって生き延びる、
そう夢を語る石井さんの言葉も、
本当のように思えます。

でも、石井さんは現在、それを理解しない学者とも、
政治とも企業とも決別して特許を守り、
闘い続けています。
この技術を金儲けのために使ってしまったら、
たちまち日本やアジアの木々は買い占められて、
日本の村やアジア諸国の貧困を救うことは
出来ないままだろう。
できたら、財団を作り、
環境と貧困問題解決のためだけに
この技術が使われるようにしたい、とのことなのですが、
石井さんはその中途にいます。

現在、石井さんの頭の中には
この技術を発展させた新たな技術のアイデアが
詰まっているそうです。
それを実現するためにも、もう時間がない、
研究にもっと時間をさきたい、という心境が
最後の小川棟梁との対談で明かされています。
(ゆき)

 
乗組員も読んでみた。

「聞き書きの世界」
「ほぼ日」にご登場いただいた塩野米松さん。
宮大工の西岡常一さんや
小川三夫さんのお話を聞き書きされた
『木のいのち木のこころ』は、
あまりのおもしろさに、読み終えてまもなく、
お話に出てきた法隆寺を実際に見に行ったくらい
つき動かされた本でした。
なので、今回もたのしみに、読みはじめました。

石井幸男さんの、木とけんかするような
激しい試行錯誤のお話を読むにつれ、
『木のいのち木のこころ』を読んで、
木についてわかった気になっていたけれど、
まるでわかってなかった、と気がつきました。
そして、法隆寺って実際どうだっけ?  
と気になりだし、
土門拳さんの写真集を見てみると、
見知らぬ法隆寺の風景ばかりで、
自分はなにを見てたんだろう、と驚きました。
自分には見えてなかったことがいっぱいです。
まいった、と思いました。

石井さんは、高度経済成長に取り残され、
寂れていく山間の村に育ちました。
貧しい村の暮らしをなんとかしたい、
先祖が残してくれた山や木がいかせれば‥‥と、
どうしようもない木を使える建材に変えようと
奮闘されてきた方です。
木を植え、木を切り、建材をつくる石井さんの話で、
木が生きているということや、
木に関わる職人さんの仕事の凄さについて、
新しい目で見ることができるようになりました。
また、失われつつある手仕事や産業も
生き返ることがあるのだと知り、
明るい気持ちになった本です。

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『木を変える』への感想メールを
ありがとうございました!
また次回の「イトイの読んだ本、買った本」を
どうぞお楽しみに。

2009-09-05-SAT
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