イトイの読んだ本、買った本。
 
イトイの読んだ本
『赤めだか』
著者:立川 談春
発行:扶桑社
価格:¥ 1,400 (税込)
ISBN-13:978-4594056155


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イトイはこう言っている。
(2008年10月15日「今日のダーリン」より)

・今回、京都に来るのに、
 ひとつも宿題を持ってこなかったのです。
 ま、役立ちそうな本も、おたのしみ用の本も、
 どっちも持ってきたので、それを読もうと思ってました。
 
 ところが、一冊めで、大当たりが出ちゃった。
 東京で読みはじめていた『赤めだか』。
 立川談春さんの書いたものなのですが、
 これが、実におもしろかったなぁ。
 たぶんね、プロの落語家ですから事実を
 じょうずに噺に拵え直しているんだとは思うのです。
 だけど、それはそれでおかずになる味付けで、いいんだ。
 師匠の談志のセリフを、確実にきっちりと書いていて、
 それがとてもいいんですよね。
 原稿にする段階で表現を微調整をしたのか、
 それともすごい記憶力をいかして、
 談志がしゃべったままを書いたのか。
 どっちとも言えるんだろうけれど、
 いいんです、とにかく。
 登場人物たちのしゃべっていることが、
 それぞれ個人の考えや思いということを超えて、
 落語の世界のすべての人々の
 知恵の結晶みたいに思えるんですよね。
 終章の、桂米朝、柳家小さんというふたりの大御所の
 からんでくる物語は、鼻の奥がつーんとしてきてね、
 ここで泣くとは思わなかった。
 前半の青春物語もいいんだけれど、
 作者がある程度おとなになってからの話が、
 ぼくには、もっとよかったですね。
 落語と真っ正面からつきあってきた人々というのは、
 ことばの根や幹の部分を、しっかり太くしている‥‥。
 それはおそらく、落語家と呼ばれない
 前座時代の修業のなかに大事なものがあるんですね。
 それを、あらためて感じた一冊でした。
 
乗組員も読んでみた。
作者の立川談春さんは、高校を中退して、
立川談志師匠の元に弟子入りします。
立川流といえば、独自路線を歩む落語界の異端児で、
談志師匠はだれもが認めるカリスマ。
とても厳しい状況のなか、談春さんは、
自らが魅入られた落語家である談志師匠に
いっしょうけんめい食らいついていきますが、
努力だけでは補えない現実に、
たびたび出会ってしまいます。
もちろん、その分とびっきりうれしいことにも、
出会います。
その談春さんの入門から真打ち昇進までを描いた、
自伝的作品です。

談春さんの書き振りはやはり落語のように軽やかで、
おもしろいエピソードもたくさん。
大笑いしたり、しんみりしたり、
なかなか深刻にはなりません。

しかし誰かに弟子入りするということ、
芸を磨いて一人前以上になるということは、
ほんとうにたいへんなことなんだろうなあ、
と読んでいて恐くなりました。

なんといっても、師と弟子の関係。
私はそれが、作中にも出てきた言葉
“師弟の関係は、恋愛に似ている”に
象徴されていると感じました。

思いのすれ違いや嫉妬がつきもので、
しかもうまくいっても、将来目指すところは、
お互いの自立というつらさのある、恋愛です。

とにかく、「弟子入り」ってすごい道だと思います。

2008-12-27-SAT
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