HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

晴耕雨読、ときおり殺人

「担当編集者は知っている」で、角川書店の池田さんより
紹介いただいた『中空』の鳥飼否宇―とりかいひう―です。



最近の「ほぼ日」読者にはなじみがないかもしれません。
昔からの「ほぼ日」読者も忘れてしまったことでしょう。
4月頃まで「ハブの棒使い」というコーナーで、
奄美大島の自然や生活について連載していました。
このたび何の因果か横溝正史賞の優秀賞をいただき、
ミステリー作家として第一歩を踏み出したばかりです。

友人たちから「なんでミステリー?」と訊かれました。
奄美大島に移住して自然観察をしている人間が
血みどろ、謎解きのミステリーを書くなんてことは、
異種格闘技というか場外乱闘のように目に映るようです。
ナチュラリストと推理作家はどうもつながりにくいらしい。
そっかなー? 自分の中ではきっちり収まってるんだけど。
朝起きて晴れていたら鳥を観にいって、
雨だったら読みさしの本を開く。
昼寝をしながら殺人プロットを考えて、少し書く。
夜はビール飲んでるか、林道でナイトウォッチング。
どうですか? 自分の中ではすっきり決まってるんだけど。

え、お気楽すぎて、ますますわからない?
ではこう言えば、わかってもらえますか?
「自然を観察するのも謎解きの一種なのだ!」

例えば、森を歩いていてアマミヤマシギの死体に出くわす。
死体は食い荒らされていないし、羽毛も飛び散っていない。
さすれば、マングースに襲われて捕食されたのではない。
ましてや、野良ネコのせいでもない。
とはいえ、林道の真中での自然死はあまりに不自然。
しかるに、犯人は人間。
突然当てられたヘッドライトに目がくらんで立ちすくんだ
ヤマシギを、あわれ人間が車で轢き殺してしまったのだ。

例えば、いつもの林道からオオトラツグミが突然の失踪。
ついこの前オスがメスに求愛のミミズを渡していたのに。
本来ならば、ぼちぼち営巣してもいい頃だ。
だとすれば、抱卵中のメスのためにオスが餌を探すはず。
それなのに、オスの姿は待てど暮らせど現れない。
結果として、子育ては失敗したのだ。
産んだ卵がハブに襲われたのか、メスが逃げ出したのか。
かわいそうに、ただでさえ個体数が少ない鳥なのに。

こんな具合です。ね、推理小説みたいでしょ?
自然はただ漠然とながめているだけでは見えてきません。
なぜ?どうして? の疑問が観察眼を養うのです。
だから、人から何と言われようと構うものか、
当分「晴耕雨読、ときおり殺人」生活を続けるつもりです。

冒頭に書いたように、拙著『中空』については
角川の池田さんが丁寧に紹介して下っているので、
わたしからは別のPRをひとつ。
ディープな自然観察記録を奄美野鳥の会のホームページの
「鳥さんのフィールドノート」というコーナーに連載中。
興味のある方は、こちらからどうぞ。
http://www.synapse.ne.jp/~lidthi/index.htm

ではまた、いつか。

2001-06-13-TUE
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