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ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その44 オオトラツグミ一斉調査

20年前のことですから覚えている人は少ないでしょう。
横溝正史原作による81年の角川映画『悪霊島』は
映画の内容よりも宣伝のコピーが耳に斬新でした。
「鵺(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい…」
鵺とは、頭が猿、胴が狸、尾が蛇、足が虎という
パッチワークのような妖怪で、夜中に鳴き声を聞くと
凶事に遭遇すると伝えられています。
その鵺の声の正体は実はトラツグミという鳥の声。
夜中に金属的な声でヒョー、ヒューと鳴き続けます。
確かに気味の悪い無愛想な声ですので、
夜の森で聞くと不吉な気がするのもやむを得ません。

このトラツグミによく似た鳥が奄美に住んでいます。
その名はオオトラツグミ。
あまたいる奄美の動物の中でも、希少鳥類の筆頭。
この鳥は文化庁の指定する国の天然記念物であり、
環境省のレッドリストでは絶滅危惧TA類に該当。
北海道のシマフクロウや沖縄のノグチゲラと並んで
日本で最も絶滅の危険性が高い野鳥なのです。
奄美大島と加計呂麻島のよく茂った森林に
100羽程度が生息していると考えられていますが、
正確な数や詳しい生態はわかっていません。
日本鳥学界の鳥類目録ではトラツグミの亜種扱いですが、
別種と考える学者も多い謎多き鳥なのです。


絶滅危惧種のオオトラツグミ

3月18日早朝、オオトラツグミの一斉調査が行われました。
今年で8回目になるこの調査、
東大助教授の石田健博士の指導のもと、
奄美野鳥の会がボランティアを募集して実施しています。
初めのうちは参加者も少なかったようですが、
今回全国から集まったボランティアは100名強。
おかげで42kmにおよぶ中央林道全線での調査ができました。

調査当日は小雨、集合時間は朝3時半という過酷な条件、
それにもかかわらずひとりの遅刻者もなく調査開始です。
説明後、林道1kmごとにふたり一組の調査員が配置完了、
5時40分、夜明け前の闇の中を各組一斉に歩き出して
オオトラツグミの囀りを聞き取っては記録していきます。
わたしは夜の林道になじんでいますが、
初めて暗闇の森を歩く人は一歩一歩が驚きに満ち新鮮です。
わたしは鳥の鳴き声に慣れていますが、
初めてリスニングする人は一声一声が何だっけと真剣です。
こうして各組の持分林道往復4kmを1時間でこなしました。

集計の結果、この日の囀り個体は41羽となりました。
他日行った補足調査の結果も加味し正式な数が決まります。
効率性を重視するなら調査経験者を組織したほうが早いし、
正確性を追求するなら徹底的な研修が必要かもしれません。
それでも現在の方法が素晴らしいのは、
普段は鳥のことや奄美の自然のことを考える余裕のない人が
誰でも簡単に参加でき、知るきっかけができることなのです。
100名のボランティアの力は決して小さくはありません。

でも奄美に行ってまで不吉な鳥の声など聞きたくないって?
そうだ、言い忘れていました。
オオトラツグミとトラツグミの一番の違いはその声です。
だってオオトラツグミはキョロンツィーという美声ですから。
この貴重な美声を聞きたい方は、来年の調査にぜひ参加を!

2001-03-27-TUE
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