HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その29 擬態づくし

その27の「目立つが勝ちという生存戦略」について、
熊本の読者、田中さんから質問をいただきました。

 …毒を持つ蝶を食べる方の鳥は、何故その色を危険信号
 と受け取るのか、ということなんです。
 すべての個体が一度食べて学習している、ということで
 はないですよね。きっと。素人の考えですが。
 記憶が、特に生命に関わるような記憶は、条件反射のよ
 うなものとして、遺伝というか、組み込まれていくんで
 しょうか。
 生物は進化してきたんだから、当然といわれれば当然の
 ような気もするんですが。
 なんだか不思議な気がして。

最初に断っておきますが、わたしは学者ではありません。
進化の専門家でもなければ擬態の研究者でもない。
ただの生き物好きな晴耕雨読家なのです。
よって、ほとんどが本による知識なのですが、
田中さんの疑問に明快に答えた記述を読んだ覚えがない。

鳥に一度毒を含むチョウを食べさせると、
懲りて二度と食べようとしなくなる。そればかりか、
この鳥は毒チョウに擬態したチョウも避けるようになる。
鳥が学習した――ここまでは実験で確認されています。
しかし学習した内容を次世代にどうやって伝えていくのか、
これはわたしにもわかりません。
誰かご存知の人がいたら、教えてください。

開き直ったついでに、わたしの他の疑問も聞いてください。
警戒色で目立つベーツ型擬態(標識的擬態)とは反対に、
隠蔽色(隠蔽的擬態)というものがあります。
背景に隠れてしまうような色形になって敵を欺く作戦です。
小枝そっくりのシャクトリムシや
砂の色そっくりのチドリの卵やヒナの模様など
枚挙にいとまがありません。
密林の迷彩色の兵士など、まさに隠蔽色です。
で、次の写真を見てください。



この魚、ツムギハゼといいマングローブ茂る河口にいます。
体色は河口の砂泥にそっくりで、隠蔽色だと思うのですが、
実はこのツムギハゼ、人をも殺す猛毒を持っているのです。
だったらもっと派手な衣をまとってもよいと思うのですが、
なにゆえこんなに地味な格好のままでいるのでしょうか?

ええい、ついでに擬態の話題と疑問をもうひとつ。
これは自己擬態の一種ですが、
ジャノメチョウの翅には目玉に似た模様がついています。
例えば、次の写真。



これはリュウキュウヒメジャノメというチョウです。
翅の裏側の蛇の目がくっきりわかります。
目玉模様は鳥の攻撃の矛先を翅の周縁部にかわすための、
「はぐらかし」作戦に有効と説明されています。
いわば、頭隠して(あえて)尻隠さず。
それにしては目玉の数が多すぎるように思うのですが…?

何にしろ、擬態についてはまだわからないことも多く、
興味深い事例が他にいくつもあります。
最新の知見や研究結果を知っている方は教えてください。

2000-12-02-SAT
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