HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その16 真夏の夜の夢

源平で思い出すのは何ですか?
合戦? 軍記物? 落人伝説?
確かにここ奄美にも平家の落人伝説が残っていて、
ゆかりの史跡や神社が散見されます。
しかし、ここで取り上げたいのは歴史上の事柄ではなくて、
蛍なんです、昆虫のホタル。

日本を代表するゲンジボタルとヘイケボタル。
観たことがない人でも、名前くらいは知っているでしょう。
この2種があまりに有名過ぎて誤解も与えているのです。
ホタルの成虫は光ると思ってませんか?
とんでもない! 
光るのは夜行性のホタルのみ。
昼行性で光らないホタルのほうが種類は多いのです。
次に、ホタルは成虫が光ると思ってませんか?
大間違い! 
成虫が光らない種類でも卵や幼虫は光ります。
じゃあ、ホタルの成虫は水を飲んでると思ってませんか?
「こっちのみ〜ずはあ〜まいぞ」というあの童謡で。
これもハズレ!
なるほど多くのホタルは成虫になったら食事をとらず、
残った命をすべて生殖に懸けます。 
発光はそのための雌雄間のコミュニケーション手段です。
逆にこれを悪用して他種のホタルの発光パターンを偽装し、
近寄ってきたホタルを食べる肉食ホタルも外国にはいます。
恐るべき知能犯といえます。
さてもうひとつ、ホタルは清流に住むと思ってませんか?
オーマイゴッド!
水棲のホタルはヘイケ、ゲンジにクメジマボタルくらい。
大多数は陸棲の貝類、カタツムリなどを餌にして育ちます。

だから、奄美大島ではホタルを観に、山に行くのです。
主役はキイロスジボタル。
体長4mmくらいの小さな黄色いホタルです。
7月から8月、夜の森ではこのホタルの乱舞が見られます。
小さな体なので、光も弱め。
大きさも明るさも2等星くらいの感じです。
それが点滅しながら森の木々の間を浮遊する。
かそけき光をじっと見つめていると、
自分の体もふっと浮くような幻想感覚に襲われるのです。

おりしも空には満点の星。
同行した星の達人に夏の大三角形を教えてもらいました。
織姫星(琴座のベガ)と彦星(鷲座のアルタイル)が
天の川をはさんで向き合っています。
無数の星、また星。
視界の端を星がひとつ流れた。
と思うと、天から降ってきた。

正体はキイロスジボタルでした。
極上の幸福感。

2000-09-03-SUN
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