HABU
ハブの棒使い。
やればできるか、晴耕雨読。

その9 女の同居人について語ってしまおう

今回は同居人の話をしましょう。
と言っても一人暮らしの身、正しくは同居爬虫類です。
何だかわかりますか?
漢字で書くと「守宮」、英語で書けば「gecko」
そう、ヤモリです。

東京のマンションあたりに暮らしていると
ヤモリを見かけることも少なくなりましたが、
ちょっと田舎の一軒家にでも行けば、
印象的なつぶらな瞳を持ち壁にしがみついているヤモリに
夜中出会うのは難しいことではありません。
本州以南に広く分布するニホンヤモリです。

ニホンヤモリは住家性の爬虫類です。
昼間は戸袋や天井裏や壁の隙間などで休んでいるのですが、
夜になると活動を始め、
吸盤状に大きく膨れた四肢の指を巧みに使って忍者のように
垂直の壁をものともせずに駆け回ります。
夜間の灯火に集まった昆虫たちをエサにしているのです。

爬虫類のくせにうろこが非常に小さくて、
その色合いも人間の肌のよう。
まぶたを閉じることができない黒目勝ちの目玉と
骨が浮き出るような細い首筋や二の腕あたりの感じは
どことなく声変わりする前の少年みたいだと思いませんか?
ボクはどうしてもそう思ってしまい、
ついつい「ヤモリくん」と呼んでしまいます。

しかし、わが家のヤモリは違います。
毎日のように出てくるかと思えば一週間も見なかったり、
家の外の壁にいるかと思えば勝手に部屋に闖入していたり、
さっぱり行動が読めないわが家のヤモリですが、
肌のきめがニホンヤモリくんより細かくなまめかしい。
うなじのあたりに若干のたるみが出るのもなにか艶っぽい。
ヤモリくんというより、ヤモリの姉御という感じ。
それもそのはず、オンナダケヤモリっていうんです。

え、「女だけ守宮」?
まさかそんな名前はないですよね。
漢字に直せば「恩納岳守宮」。
沖縄の恩納岳を名前に持つ、南西諸島のヤモリです。
ただし徳之島以南では、住家性ヤモリとしては
より大型のホオグロヤモリのほうが優勢であるらしく、
オンナダケヤモリが民家の照明下で見られるのは
奄美大島ならではの現象だということです。

オンナダケヤモリにはちゃんと雄もいます。
そりゃそうだろ、と叱られそうですが、
世の中って不思議なもので雄がいないヤモリもいるんです。
日本ではオガサワラヤモリがすべて雌のみ。
単為生殖で子孫を残します。びっくり仰天ですね。

さて、わが家のオンナダケヤモリは雄なのか雌なのか。
残念ながら外見だけではいかんとも判断がつきません。
でも男のボクには理解しがたいあの気まぐれな態度。
あれは雌でしょう、きっと。

2000-07-06-WED
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