石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂[しと]げて死なむと思ふ
 (石川啄木『一握の砂』より)
 ※[ ]の中はふりがなです。



第24回 やりとげる石川くん



石川くん、こんなメールをもらいました。
匿名希望のK・Yさんから。
もっと前に届いていたんだけど、
きのうはセンチメンタルするのに夢中で、
紹介するの忘れてたよ。
   *
>今、いいともに
>石川くんの子孫という人が出ていました。
>東野さんに「機嫌悪いんか!」とつっこまれたり、
>ご先祖さまの作品の感想を聞かれても
>「特に・・・」と答えたり、
>さすが石川くんの子孫だ、と思いました。

   *
「いいとも」というのはテレビ番組ね、石川くん。
「東野さん」というのはテレビによく出てる芸能人。
って説明してもわかんないかなあ。
もう石川くんの理解の及ばない時代だからね、今は。
ああ、私も見たかったよ、石川くんの子孫。
石川くんの子孫であるということに負けずに、
強く生きてほしいと願ってやみません。
あ、失敬。
私には珍しく失礼なことを言ってしまったかしらん。
でもまあ、
石川くんの子孫の方のことだから、
「別に……」とか言ってくれるにちがいありません。
   *
こころよく、われに、はたらく仕事。
石川くんは、それを、やりとげて死ねたのかな。
そもそも石川くんの「やりとげたい仕事」って、
いったい何だったんだろう。
女の人といちゃいちゃすること?
小説が売れること?
小説家として売れっ子になって借金を返すこと?
売れっ子になって女の人といちゃいちゃすること?
   *
石川くんは2001年の今、
「歌人」として、ものすごく有名で、売れっ子です。
生きてる人たちって、死んでる人が大好きだからね。
石川くんが今も生きてたら、
私だって石川くんになんか絶対負けないのにと、
くやしくてなりません。
今のところは、ひとまず負けておいて、あ・げ・る。
どうしようもないもの。
生きてるってことは。
   *
たまたま手にとった文芸雑誌「すばる」8月号に、
石川くんの歌が載ってました。
「すばる」っていうのは、
石川くんが発行人をやってた「スバル」の子孫かな。
タイトルは『石川啄木「一握の砂」補遺』。
   わけもなく
   人の恋しく思へる日
   燐寸[マッチ]ともして見てゐたるかな
……ああ、これは。
石川くんのふりをしてつくった、石川ふうの歌だわ。
寺山修司という、
石川くんの死んだあとに生まれた歌人の、いたずら。
いたずらされて愛されて、幸せ者だね。石川くん。
   *
そして寺山さんも、今はいない人です。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-07-22-SUN

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