石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

どんよりと
くもれる空を見てゐしに
人を殺したくなりにけるかな
 (石川啄木『一握の砂』より)


第16回 石川くんの殺意


石川くん、早まっちゃ駄目だ!
君が殺人犯になったら借金はどうなるの?
妻や子やママは?
君にはまだなすべき仕事があるんじゃなかったのか?
   *
悪かったよ、私が悪かった。
石川くんは「負けず嫌い」で有名だったんだよね。
伊藤佐喜雄『児童伝記シリーズ 38 石川啄木』(偕成社)
にも書いてあるもの。
初めて石川くんと出会ったとき、
上級生の金田一くんは君のおでこを見て、
「わあ、すごいでんぴこだ。」
って、からかったんでしょ?
「でんぴこ」というのは、おでこのこと。
そしたら石川くんは
金田一くんたち上級生に、ものもいわずに
いきなり、とびかかった。
むきになって、みんなをおいまわしたあげく、
さいごに金田一くんにしがみついて、
くちびるをかみしめながら、ぐいぐいと、
いっしょうけんめいにおした。
「えいっ、えいっ。」
と、ちいさいこぶしで石川くんは、
金田一くんのわきばらをなぐった。
「いたいなあ。あやまるよ。
きみ、かんべんしてくれたまえ。」
と、金田一くんが、こうさんした。
それから二年ばかりたって、
ぐうぜん石川くんと金田一くんが再会したとき、
「きみをおこらせたら、たいへんだもんなあ。
これからは、ずっとなかよくすることにしようよ。」
と、金田一くんが言ったんだね。
(以上は私の適当な要約。実際はもっと感動的!)
私はこの本を読みながら、
ゆうかんな石川くんのすがたと、
二人のうつくしい友情のはじまりに、
かんげきして涙が出たよ。
しっとりと、まくらが重たくなるくらいにね。
いままでひどいことばかり言って、ごめん。
あやまるよ、かんべんしてくれたまえ。
だからその、
ものすごくサビたピストルとかナイフとか、
捨ててくれないかな。
……ありがとう。
これからは、ずっと、……。
   *
って言ってるそばから、
あーあ、
また砂浜でカニと泣きぬれてるし……。
おでこちゃん、
君は怒っている顔よりも、泣いた顔よりも、
笑った顔よりも、
もう全体的に決定的に徹底的に、おでこちゃんだよ。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-06-24-SUN

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