石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

目さまして猶[なほ]起き出[い]でぬ児[こ]の癖は
かなしき癖ぞ
母よ咎[とが]むな
 (石川啄木『一握の砂』より)
 ※[ ]の中はふりがなです。


第9回 ぐずぐずの石川くん


石川くん、
このあいだはちょっと言いすぎました。
ごめん……。
   *
いくら君が「石川くん」だからといっても、
時にはママに優しくしたくなることだってあるよね?
実際にママをおんぶしたわけじゃなくて、
空想の中でおんぶしたのかもしれないし。
ママをおんぶしてあげたいなあ、
っていう優しい気持ちは嘘じゃないんだね、きっと。
早く仕事で成功して借金を返したいなあ……とか、
自分のせいで苦しんでる家族にすまない……とか、
そういう「気持ち」はあるんだろうって、わかるよ。
妻子や金田一くんにしてみれば、
空想するより金をくれ!
って言いたいだろうけど……。
空想の中の君はいつだって、
超可愛くて、繊細で、知的な、好青年さ。
そして現実の君は、
子供っぽくて、ひ弱で、頭でっかちな、好色青年だ。
ママをいじめたかと思えば、
甘えてみたりもして、
女ごころをもてあそぶ
そのテクニック……末恐ろしいよ。
そのうち酒のんで妻をなぐるような男になりそうだ。
だけど今のところは、
お・ね・ぼ・う・さん! だ。
   *
ああ、
また、
石川くんをいじめるようなことを書いてしまった。
いじめるのって、快感なんだもの。
君も同感だろう?
ちなみに、
君の歌を私が歌いなおすときには、
「我」を「俺」って訳してきました。
ワレとオレの響きが似ていることに着目したのです。
でも、じつは君にいちばん似合う一人称って、
ひらがなの「ぼく」だと思う。
ぼくちゃん、って感じ。
   *
というわけで、
バランスをとるために、
君の歌に出てくる「母」は全部「ママ」と訳します。
「ぼ、ぼくは母のことを『ママ』なんて言わない!」
って感じかもしれないけど、あきらめてくれ。
それから、
君の歌にやたらに出てくる「かなし」という言葉は、
現代語と同じ「悲しい」の場合もあるし、
古語の「愛[かな]し」の場合もあるみたいだが、
きょうの歌の場合は前者なのかなあ。
どっちでもいいけど、
かなしみすぎでは?
もっと、
生きるよろこびを積極的に探したり、
肉親や他人への感謝の気持ちを再確認したり、
したほうがいいと思うよ。
大きなお世話か。
あ〜、きょうも自分のことは棚にあげて、
石川くんに説教たれて楽しかった!
じゃあ、またあした。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-06-02-SAT

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