石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

たはむれに母を背負[せお]ひて
そのあまり軽[かろ]きに泣きて
三歩あゆまず
 (石川啄木『一握の砂』より)
 ※[ ]の中はふりがなです。


第8回 石川くんとママ


石川くんの悪い噂をまた聞きました。
石川くんのことを「鬼畜」と言うのは、
なんだか鬼畜さんに申しわけない気がしてきたので、
これからは君みたいな男のことを
「石川くん」と呼ぼうと思う。
読者の皆さんもぜひ、流行らせてくださいね。
例:「彼女にあやまらないとお前、石川くんたぜ?」
  「俺もあのころは石川くんだったからなあ……」
  「あいつ最近、ちょっと石川くんじゃないか?」
   *
石川くんをみんなでよってたかって断罪した、
『新文芸読本 石川啄木』(河出書房新社)は
面白かったです。
「面白い」なんて言ったら、
石川くんに泣かされた人たちが浮かばれないかな。
石川くん、
この本でノンフイクション作家の澤地久枝さんが
言ってたことは本当?
〈啄木は評論とかエッセーのなかで、
たくさん本音を言っていますが、そのなかに
「私は母をいじめることに快感を感じて
しかたがない」という文章を書いています。
「哀れだと思うけど、よけいそそられて
いじめたくなる」と。〉
そうか、
やっとわかったよ。
石川くんはサドだったんだね!
だから妻子や老いた母を函館に置き去りにして、
ろくに送金もせず、
嫁と姑の壮絶な闘いを遠くから愉しんでたんだ?
奥さん、
とうとう家出しちゃったそうだけど、
そりゃあ石川くんのせいだよ。全部。
   *
たわむれに母を背負ったのも、
手のこんだ「いじめ」だったんでしょ。
そしてわざわざこういう歌を世に発表することで、
世間の人が感動して、ほろりと涙する……。
「親孝行な息子さんですね!」とか口々に言われて、
息子のいつもの仕打ちを打ち明けることもできず、
人しれず泣きぬれてしまう母……。
それを腹の底で笑っていたとは、なんたるやりくち!
そんなひどい「いじめ」、
私には思いつきもしなかったよ。絶句。
   *
まあ、たしかに人をいじめるのは快感だよね……、
それは認める。
だけど、いじめる側にも礼節が必要だと思うんだ。
〈五年後に仕返しされて殺される
覚悟があればいじめてもよい〉
っていう私の歌を、
石川くん、
君に捧げます。
じゃあ、また来週。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-05-27-SUN

BACK
戻る