石川くん。
枡野浩一による啄木の「マスノ短歌」化。

はたらけど
はたらけど猶[なほ]わが生活[くらし]楽にならざり
ぢつと手を見る
 (石川啄木『一握の砂』より)
 ※[ ]の中はふりがなです。


第3回 石川くんと仕事


あまりにも有名な歌だから、
ちょっと思いきって詠み変えてしまいました。
最後の
「ぢつと手を見る」→「じっと手を見る」
のところは、
旧カナ遣いを新カナ遣いに改めただけですが。
石川くんの時代の気分としては
「ぢつと」のほうが合ってるのかもしれないけど、
今は「ぢ」という字を見たら
お尻の病気を連想する人がほとんどだと思う。
手じゃなくて尻を連想されたら悲しいんで、
変えさせてもらったよ、あしからず!
   *
きょうは、
「あしからず」をもうひとつ言わなくちゃならない。
第1回の原稿の中で、
「新しい表現を常にさがしていた石川くんなら、
短歌を横書きにしたくなったかもしれない」
って書いたの、おぼえてる?
それは最初「たとえば」の話として書いたんだけど、
ある事情があって、
ほんとうに歌を横書きにしてしまうことにしました。
それは、
今この国を支配しつつある
「iモード」っていう新興宗教が
横書きしか受け付けないせいなんだけど……。
いやな時代になったもんだね。
だけどその一方で今の時代には、
石川くんの歌を縦書きで読みたい人におすすめの、
「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/
っていうインターネット図書館もあるんだ。
縦書きで読むには
「エキスパンドブック」というソフトを
ダウンロードする必要があって少々面倒ではあるが、
石川くんの本が何冊も無料で楽しめます。
ごめん、
石川くんには何のことやら全然わかんないよね、
あしからず!
   *
ところで石川くん、
君がほんとはあんまり働かなかったってこと、
わりと最近じゃ有名だよ。
友達に借りた金を無駄づかいして、
プロの女の人といちゃいちゃしてたとか……。
はたらけど
はたらけどなお
わがくらし
らくにならざり
……っていう調子の良すぎるリズムが、
じつは働いてない君の姿を的確に表現してると思う。
石川くんの短歌を研究する文学者の中には
石川くんのことを弁護する人もいるみたいだけれど、
それってやっぱファン心のせいで
評価が甘くなってるんじゃないかなあ。
私にはわかる。
石川くんはなまけものだ。
だって、
サボってばかりいるくせして
「働いても働いても俺の暮らしは楽になんないなあ」
なんて自分をあわれんでしまう君の甘えん坊ぶりは、
私そっくりだから。
   *
そして時々は、
じっと手を見てしまう。
関係ないけど私は昔、
徳川家康や手塚治虫と同じ手相をしてるって
占い師に言われたことがあるんだけど、
手相だけ立派でも一円にもなんないよな……。
あーあ、
石川くんは、
もう死んでるから楽だよね。
これから当分のあいだ生きてくつもりの私は、
手相を見てるヒマがあったらもっともっと働こうと、
今これを書きながらも決意を新たにしてるところ。
   *
きょうはここらへんにします。
じゃあ、またあした。

枡野浩一

http://talk.to/mass-no

2000-05-12-SAT

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