石川直樹+エリック+糸井重里 鼎談 ぼくらの写真を見てほしい
第2回 全速力で走れるよっぱらい
糸井 ABCのトークショーのときに、
「ぜったい写真を見てほしい」って思いが
伝わってきたから、
なんかね‥‥肝心の写真集を見るまえから

ジーンときちゃったんですよ。

石川 「何枚撮った?」みたいな話から始まってね。
エリック やっぱり「いい写真集ができたねー」って
言われるのは嬉しいんだけど、
そのナカミは、
何万枚、撮ったうちの何枚か、なんですから。
糸井 それを、知ってほしい?
エリック その写真のうしろにあるもの、
その写真を撮るあいだにあったものは、
すごく豊かですから。

一枚一枚の写真には、ひとつひとつ、
そういう背景があるんだってことを知ってほしい。
糸井 ‥‥こういう話をね、ほかの若い人も
聞いたらいいのになぁと思ったんです。
石川 そうですか。
糸井 だって、そもそもの話、
ふたりとも、命の危険すらあるようなことに
かけてるわけじゃない。
エリック あるよ〜、危険は(笑)。
糸井 それこそ、石川さんの『最後の冒険家』なんて
冬の太平洋で漂流したって話からはじまるわけで。
石川 そうですね。
糸井 今回の『VERNACULAR』にしたって、
足を滑らせただけで、オシマイでしょう。

こんなところから。


石川直樹『VERNACULAR』(赤々舍刊)より
石川 ええ、はい。
糸井 何にも知らないで撮ってたら、
現地の人に怒られた‥‥みたいなことだって
あると思うんです、ふつうに。
石川 オレ、ムチで叩かれたりしたし。
ペルーの山奥で。

エリック アハハハハ(笑)。
石川 数万人の人が集まるお祭りの渦中で撮ってたんです。
糸井 それって、神さまと交信してる最中に
「なにしてんだ、おまえ」ってことでしょ?
石川 まあ、カメラはともかく、
ケータイすら誰も持ってないようなところで
三脚まで立てて撮ってたら‥‥ねぇ。
糸井 だから、そうやって、ムチで叩かれてまで、
原価割り込んでまでつくった本だから、
ぜったい見てほしいって気持ち、わかるよ。
エリック でしょう?
糸井 でもさ、その一方で、
そこまでして「なんで撮るの?」って疑問も
湧いてくるんです、見てると。
石川 撮る動機‥‥ですか。
糸井 エリックの写真なんか、まさにそうじゃない。

こんどの『中国好運』に載ってる人たちって
「暴力顔」してるじゃないですか。
エリック そうですねー(笑)。


エリック『中国好運 GOOD LUCK CHINA』(赤々舍刊)より



エリック『中国好運 GOOD LUCK CHINA』(赤々舍刊)より

糸井 ‥‥全員が。
エリック アハハハハ、全員じゃないけどー(笑)。
糸井 ようするに、
「なんでこんな写真を撮ったのか?」と
訊きたいんですよ(笑)。
エリック うーーーーーん‥‥なんでだろう。

まぁ、「なんにも言わないで、急に撮る」っていう
ボクの撮影のしかたも、関係あると思うんですけど。
糸井 そうか、ちゃんと「こんにちは」って
挨拶してから撮ったら、
こんな顔には、ならないわけだ‥‥。
エリック ならない。ならないので‥‥ツマンナイね。
石川 そうだろうね。
エリック もちろん、生きるために精いっぱいで
明日のお金をどうしよう‥‥っていう人も
ここにはいっぱいいるから、
そういう人の「顔」なのかもしれないけど。
糸井 猟師というか、漁師というかね。
顔的に。
エリック みんなイイ人たちなんだけどねー、ホントは。

糸井 うん、それはそうなんだろうけどさ‥‥、
これが今の「中国」なんだよ、きっと。
エリック この写真集、こういうふうにした理由は、
たぶん、
「日本にいる中国人のボク」と、
「中国に行ったら
 中国人じゃないと思われてるボク」が、
すごくこう、なんて言うんだろう‥‥。

とにかく、コウフンして撮ってたんです。
糸井 うん、うん。興奮してるよね、これは‥‥。
でもさ、
ピントはバッチリ合ってるんだよね(笑)。
石川 これ、普通にマニュアルで撮ってますからね。
エリックは。
糸井 つまり手動でピントをあわせてるんだ。
エリック そうです。
糸井 そういう身体に、なっちゃってるんだね。
エリック そうじゃないと撮れないので。
糸井 なんかさ‥‥、
「ものすごく足取りのシッカリした
 よっぱらい」というか(笑)。
石川 あはははは(笑)。
糸井 「全速力で走れるよっぱらい」というか(笑)。
エリック アハハハハ(笑)。
それ、おもしろいねー!
 
石川直樹『VERNACULAR』(赤々舍刊)より
 
エリック『中国好運』(赤々舍刊)より
<つづきます>
2009-03-03-TUE
 
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