いろどり 稼ぐおばあちゃんたちの町。
10 気を変えるまで。

糸井 簡単に「逆転の発想」って
言われたくないですよね。
だって、逆転で考えたわけじゃないですもんね。
これしか材料がなかったから。
横石 そうやね。
これしかない、という状況なのに、
おばあちゃんたちには、この木が
そういうふうに見えてなかったわけや。
世間からは、おばあちゃんたちが
そういうふうに見えてなかったわけや。
逆に見えよったわけや。
山田 柿の葉を毎年掃くのが面倒だった、と。
それはごもっともですからね。
「農業指導がだめだ」と思ったときに、
何かほかの作物を、というふうには
思われなかったんですか。

10 気を変えるまで。
横石 やったよ。実際にやりました。
ほうれん草、わけぎ、
いろんなものをやりました。
でも、この地域では、
葉っぱがいちばんだったんです。
葉っぱが、この地域の人たちの
気持ちを変えたけん。
結局、ほかのものは、
ある程度までは成果をあげることはできても
「気を変える」というところまでは
いかなかった。
糸井 レタスじゃ旗印になんないんだよね。
横石 ならない。
レタスやネギはならない。

10 気を変えるまで。
糸井 ただの葉っぱは、なる。
横石 ただの葉っぱやけん、なる!

10 気を変えるまで。
山田 だからこそ
おもいしろいんじゃないか、と。
それは誰も気がつかないですね。
横石 都会の人は気がつくかもしれないけど、
田舎の人は気がつかないです。
糸井 いや、都会も気づかないですよ。
都会の人は公園に
せいぜい桜を折りにいくだけです。
横石さんは、
困っている生産地と現場の
両方をつかんでいたからわかったんですね。
横石 店に通って、
現場の成熟度を肌で知り尽くしていた。
それが強かったです。
糸井 すでに「つまもの」が
どんどん必要とされていく気配は
ちらほらとあったわけでしょう?
桜の枝が箸置きになっている、
ということくらいまでは。
横石 そうです。昔は料理人が
山からみんな取ってきよった。
糸井 横石さんは、農業指導する立場にいたもんだから、
自分ひとりで
桜の枝を売る商売になったんじゃなくて、
おばあちゃんたちに声をかけた。
山田 そう! そこなんですよね。
ふつうだったら、そこで
自分で事業をつくるんですよ。
この事業を、横石さんご自身がやられてたら
どうなったでしょうか。
横石 ‥‥ものすごい儲かっていたでしょうね。

10 気を変えるまで。
山田 はははは。
横石 正直言わせてもらうと、
億の利益が出たでしょうけど、
それはやろうと思わなかった。
糸井 自分でやってたら、
気分がちがうでしょう。
横石 おっしゃるとおりですね。
ふつうの会社とは思いが違うのかな?
糸井 「企業は利益を上げることが目標である」
というのと、
種類が違いますよね。
横石 ぜんぜん違います。
ぼくは、自分があの人たちを
従業員として使うより、
ひとりひとりが事業家になるほうが
ええと思たんです。
それがあたりましたね。
一か所に集めてやったほうが効率がええ、
とアドバイスをくれる人がおるけど。
糸井 それは、昔の人の発想ですね。
横石 そう! 昔の発想。
同じような人をひとつのところに集めたら
みんな喧嘩するだけや。
糸井 しかも、おもしろくない!
横石 そう、ぜったいにおもしろくない。
だからうちは、強いんだと思います。
見えないようだけど、強いですよ、うちは。
ぜったいにつぶれない。

「いまどうしてもこれが必要」
という注文が入ったら
100人が100人、
ぜったいにやってくれますよ。
それはわかる。
これは、簡単に言ってるけど、難しいことです。
個人的に儲かることや、
いま採っているものをやめて、
「よし、こっちやろう!」という気持ちに
させることができるのは。

会社で社長が命令するんやったら
ほら、できるかもわからんけど、
こういう形の中でできるというのは
なかなかないです。
糸井 「いろどり」と同じことを
似たような山でやっても
できないでしょうし、
300円のものをこっちは350円で買うよ、
というふうに言っても
かなわないんだよ、おそらく。
横石さん、不思議なことがはじまっちゃったね。

10 気を変えるまで。
横石 不思議‥‥そうやね、
ある意味では、不思議なことかもわからんね。
山田 経済はお金だけでは動かない、という
証明ですね。
会社もお金だけでは動きません。
横石 「いろどり」のことが最近話題になるのは、
そこの部分が
ほんとうはみんなが
わかってきた、ということがあるんちゃうかな?

「会社はつぶれてもいいんですよ、
 またやればいいんですから」
「買えばいいんですよ」
という考えがあります。
ここのところ、そういった
会社絡みの事件があったりして
「会社って何が大事なんかな?」ということも
社会全体が、少し
わかってきた部分もあると思う。

ぼくは社員によく言うんです。
どんなにパソコンが使えてもあかんのや、
おばあちゃんの肩をちょっとたたける、
そのほうが大事で、
そういうことができる人なら、
ぜったいにやっていける、と。

(つづきます!)
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2006-10-22-SUN

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