時間と空間と中枢神経の映画。
鈴木敏夫さんと

無邪気に語る。

第5回 映画監督の動機

糸井 映画の中で言ってることって、
それこそ論文にしたら、すぐ済むことだけど、
映画にする理由って、
今、話しているような
神経の往復運動にあるんですよね。
 
鈴木 はい。
文章に書けるんだったら、
書いちゃえばいいわけですから。
 
糸井 お城みたいな建物に、
なんでヘリコプターみたいなもので
出かけていかなきゃなんないのかというと、
単純に言うと、「見せたいから」ですか?
 
鈴木 はい、監督が自分で見たいっていうだけで。
 
糸井 そうですよねぇ?
下からはあの建物が見えなくて、
上から行くわけじゃないですか。
そうやって見せていくっていうことで、
絶えず人をクラクラさせたい、みたいな?
 
鈴木 うん。
映画監督がものを作る動機っていうのを、
ぼくはプロデューサーという立場で、
数人、観てきたんですけど、
それはたいがい、不純なものなんです。
 
糸井 (笑)あんまりイノセントじゃないんですね。
鈴木 押井守の場合は、おそらく、学生時代に、
ハンス・ベルメールという人の球体人形を
写真集かなにかで見たんですよ。

「いつかそのホンモノを見たい」
「映画を作るってことになれば、
 ロケハンでニューヨークにも見にいけるかも」

これが、スタートなんですよ、
それでホンモノを見に行ったわけでしょう?
彼は、興奮しちゃうわけです。
今、52歳ですからね、
学生時代から見ると、アメリカで30年ぶりの対面。

ついでに、ヨーロッパには、
そのお人形の有名なのがいっぱい置いてあるわけで。
「この際、ぜんぶ見ちゃおう!」
と、彼は、ドイツだフランスだイタリアだと、
人形を見まくるわけですよ。
 
糸井 ロケハンしてたんだ?
 
鈴木 そうです。
「見てよかったなぁ!」
と感動して成田へ帰ってくるわけです。

で、成田の直前あたりで、
「しかしこれ、映画にしなきゃいけないんだよなぁ」
たぶん、そう考えたと思うんです。
この映画で、主人公がいろんな人形に出会うのは、
自分のそのロケハンをそのまま映画にしたんですね。

「それだけで持つのか?
 ちょっと事件も入れたほうがいいか?
 恋愛も、あったほうがいいかな?」

そうやって、考えたわけですよ、きっと。
 
糸井 なるほど。
 
鈴木 彼がシナリオを書いたときに、今みたいに、
それを解きあかすのが、ぼくの商売なんです。
 
糸井 『イノセンス』は、3月6日から公開ですよね?
その日からは、試写会に来た人だけじゃなくて、
みんなが、この映画で苦しむようになるわけです。

そうしたら、それぞれの人は
「おまえも観ろよ」って誘うのか、
「いや、観なくていいよ」ってつぶやくのか。
そこには、鈴木プロデューサーとしての
次の賭けが、あるわけですよね?

ぼくは、その映画公開に向けた、
鈴木さんの予想と願望を、聞いてみたいんです。
 
鈴木 ……よく、わかんないんですよね。
ほんとに、わかんないです。
 
糸井 今までも、
わかんないとか言いながら、
鈴木さん、ごまかしごまかし、
「おっとどっこい!」みたいにして、
やってきたじゃないですか。
 
鈴木 (笑)はい。
 
糸井 たとえば、鈴木さんの発想の中では、
映画公開初日っていうのは重要なんですか?
 
鈴木 やっぱり、初日ですね。
初日にどのくらいのお客さんが来てくれるかで、
だいたい、わかっちゃうんですね、映画って。

何でかは、知らないですけれど(笑)。
 
糸井 じゃあ、鈴木さんは
「わかんない」って口では言ってますけど、
ほんとはその初日に、判断しているんですね?
 
鈴木 だいたい初日を見て、
「あー、この映画はなんとかいくんだなぁ」とか。
それだけなんですけどね。
 
糸井 とくに『もののけ姫』から後の鈴木さんって、
寸前まで「わかんない」って言い続けてますよね?
 
鈴木 わかんないんですよ、ほんとに。
 
糸井 ほんとなんですか?
 
鈴木 ほんとにわかんないですよ、ほんとに。
 
  (明日に、つづきます!)


『イノセンス』についてはこちら。

2004-03-03-WED


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