『言いまつがい』装丁伝説!
あのへんな本をつくった人たち。
祖父江慎×しりあがり寿×糸井重里

第4回 できるものはできるよね。

糸井 あの、横尾(忠則)さんの場合なんかは、
はじめから製版の人がいて、
横尾さんのだいたいの指示を
読み解いて指定していくんですよ。
「たぶん横尾さんはこう言いたいんだろう」
っていう部分で。
しりあがり すごい。それは便利(笑)。
糸井 あの、トレペの上とかに
細かく書いてある指定や記号の意味は
横尾さん、全部はわかってないんですよ。
それを、わかる人がぜんぶ置き換えてる。
しりあがり へええ、そうなんですか。
── ようするに、完成形を思いつく人と、
それを形にする職人の両者が
わかっていれば問題がないってことですね。
しりあがり あいだに人が入るとややこしくなるんだ。
祖父江 ‥‥まえに、
アミテンに対してアミテンを抜き合わせる
(※ええと、「印刷」した紙を
  すっごく拡大して見ると
  細かい点々の集合があります。
  その点が「アミテン」。
  当然、点と点のあいだに
  隙間があります。
  一方、色と色を隙間なく
  隣どうしにするのが「抜き合わせ」。
  だから、
   「アミテンどうしの抜き合わせ」
  というのは、ええと、どういうこと?)

っていうのをね、やろうとしたんだけど、
営業の人にぜんぜん理解されなかった。
製版のことを知らないんじゃないかって
言われちゃって。
糸井 「抜き合わせでアミテン」
っていう方法があるんですか。
祖父江 うん。指定をちゃんと読めば
わかるんですよ。
あの、アミテンのサイズを
変えてあったんです。
あの、1インチ(約25ミリ)に
点がいくつ並ぶかで、
「何セン」っていう
言いかたをするんだけども、
たしか20センぐらいで
分解したアミテンを敷いて、
そのアミテン一粒ずつに対して
175センでつくったアミテンを、
抜き合わせでやってほしいって
頼んだんだけど、
「アミテンを抜き合わせるなんてできない」
って営業の人に言われちゃった。
でも、それも現場の人に話が行くと、
すぐわかってくれて大丈夫だった。
糸井 へえええ。
── やっぱり、現場の職人の人は、
「できる」と「できない」が
きっちりわかるから
話が進むんでしょうけど、
そこに現場以外の人が入ってしまうと、
「前例がない」っていうことが
「できない」とイコールに
なってしまうんでしょうね。
糸井 「ウチの職人に、そんなことを
 頼めるんだろうか?」ってなるんだね。
── 祖父江さんは、
「前例がなくともできるはず」っていうのは
どういうふうに確信するんですか?
祖父江 いやべつに、例があるかどうかは、
わかんないけど、
できるものはできるよね。
糸井 あああ、原理がわかってるからだね。
しりあがり あ、そっか、原理がわかってるもんね。
自分で見積もり出してましたもんね、昔ね。
糸井 そうそう、
お金のことまで考えるっていうのが、
この人の自慢ですからね。
 
祖父江 えへん(笑)。
糸井 「これが高いようだったら、
 これにするとこのくらい安くなる」
とか(笑)。
そんなことを言う装丁家はね、
なかなかいない。
(続きます!)

2004-02-20-FRI

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